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リブリヌ04/サンテミリオン村歩き#28


夕食はホテルの近くにあるRestaurant Cosy Tourny(12 Cr Tourny, 33500 Libourne)に入った。
https://www.facebook.com/cosytournylibourne/?locale=tl_PH
ワインは白でアントル・ド・メールEntre-Deux-Mersにした。
「Entre-Deux-Mersというのは、ふたつの潮の間という意味だ。二つの潮というのはガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれた楔形の部分な」
「Mersだから、海じゃないの?」
「いやmaréeだ。merではない。ゲシャ渓谷がゲイシャになったように、いつのまにかMersと書かれるようになったけど、maréeだ」
「赤も白もあるんでしょ?でも飲むのは白ばかりね」
「秀逸な赤も多いよ。ディスパーニュ家が作るGIROLATE ROUGEが個人的にはお好みだ。しかしEntre-Deux-Mersとはいわない。白だけがAOCだ。赤はEntre-Deux-Mersとは言わない。赤は単にAOCボルドーあるいはボルドー・シューペリオールだ」

「ここにあるかしら?赤はそれにしてみない?」
「聞いてみよう」
なかった。しかしChateau Bouscasse Menhir2015があったのでこれにした。
「飲んだことないわ」
「アラン・ブリュモンのワインだよ。飲んだことある。しかし2015は初めてだな。タナ種が際立ってるな」
「タナって、フレンチバスクで飲んだわよね」
「ん。Chateau Bouscasseはまさにフレンチバスクにあるワイナリーだ。
https://www.brumont.fr/
「あらま」
アラン・ブリュモンの銘醸品を嗜みながらリブリヌを襲ったBertrand du Guesclinベルトラン・デュ・ゲクラン将軍の話を続けた。
「コルデリエ修道院址でベルトラン・デュ・ゲクラン将軍の話をしたろ?」
「シャルル五世の部下でしょ?」
「ん。英仏百年戦争で活躍した軍人だ。百戦錬磨の人だ。彼の奮闘でリブリヌは一時フランスのものになった。しかし人々は不満だった。英国との交易が止まればリブリヌはただの田舎町になってしまうからな。1380年に彼が死亡すると、忽ち勢力は反転して1394年には再度リブリヌは英国のものになっているんだ。以降、百年戦争の間、リブリヌは英国王に忠誠を誓い、結局1453年7月13日にフランス軍が再度この町を墜とすまでフランス軍と戦っているんだ」
「カスティヨンの戦い?」
「そうだ。英仏百年戦争、最後の最大の戦いだ。この戦いに敗北し、英国はボルドーを含むアキテーヌから完全撤退をした。一番被害を受けたのはリブリヌだった。町は英国との交易という糧を失い、人々は去り、町は過疎化した。この過疎化が、サントンジュやポワトゥーからの入植者を受け入れることになった」
「どういうこと?」
「ガスコン人でない・・リグリア人の末裔でない、フランス語を話す人々がリブリヌに入り込んできたんだ。町を経営する人たちが替わったんだ・・もちろん山河は残る。新月と満月の時に起きるポロロッカは無くならない。アルヴェルArveyresから大きく歪曲したドルドーニュ川は、フロンサックFronsacからリブリヌに天然の良港をもたらしている。英国という交易先を失っても、ガスコン人たちだけの町でなくなっても、ドルドーニュ川がロジスティックとして有能なことは変わらないんだよ」
「なるほど・・でも町の支配者は変わったわけね」
「1400年代の終わり、晩年のルイ11世がリブリヌで定期的な見本市を開くことを許した。この時からリブリヌは再度花々しく復活したんだ。リブルヌの紋章は、この時に起こされたものだ。リブリヌは交易港として再興したんだ・・ところだが」
「あ。出た。ところがだ、が」
「ところがだな。プロテスタントが台頭してきた」
「プロテスタントとカトリックの抗争ね。1500年代始まりからでしょ?でもなぜプロテスタントというの?Protestって抗議するということでしょ?」


「既存のカトリックに蔓延していた教条主義・典礼主義に抗議して、1529年の第2回シュパイエルの国会で出されたのが『抗議書protestatio』なんだ。ルター主義者やカルヴァン主義の諸派そしてイングランド国教会の信者たちがこれだ。彼らはカトリックの教皇権と教会法を否定した。神は教会に在るのではなく、人の中に有るとしたんだ。ということは・・」
「とういうことは?」
「神様は教会の専売特許じゃないと・・ということさ。人々は神様に会うために教会へ行かなくてはならなかった。神の代弁者としての神父に遭わなければならなかった。神の言葉である聖書は、教会が占有していた。その教会の専有を突き破ったのが、グーテンベルグの印刷術だ。印刷は、聖書を教会から解き放ったんだよ」
「あ!なるほどね」
「神様が教会の専売特許でないことを、誰よりも望んだのは富裕な商人そして貴族たちだ。彼らは彼らのキリスト教としてプロテスタンティズムを強く支持したんだよ。ルターもカルバン派も資金源は彼らだった。1500年代は、その揺籃期だったんだよ」

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました