デトロイトの怪談
仕事の移動手段は、大半が飛行機だったから、実にご難が多かった。
それと・・そういう星の下に生まれたのかどうか知らないけど。ほんとに各地で、クーデターと暴動に遭遇している。行くとこ行くとこでだ。ンなとこばっかりで仕事してたせいもあるだろうけどね。嫁さんが呆れ返るほどだった。湾岸戦争は、一次も二次も出くわしちまった。こうなると・・やはりこりゃ何かの”業”だなと思っちゃう。
なかで一番家族に心配をかけたのは、デトロイト空港でのオヤジ失踪事件だった。これは本人も相当参った。
正月。NYCから東京へ向かう便だった。
僕のチョンボで、JFK・成田の発券が嫁さん一人になっちゃったことがある。仕方ないので僕だけラガーディア・デトロイト・成田というコースになったが、ラガーディア出発がJFKより6時間ほど先だったので、成田で嫁さんと待ち合わせ出来るなと思って、その便にした。そうして家族全員がラガーディアまで一緒に来てくれて、僕は独りで明るくホイホイと飛行機に乗ったンです。
ところが成田で、嫁さんがいくら待っても僕は来ない。行き違いになって、先に銀座のアパートへ先に帰ったのかなと思って一人で戻っても居ない。さすがに嫁さん焦ったそうです。
すぐに娘たちに連絡して、飛行機会社に問い合わせた。そしたら確かにデトロイトまでは乗っている。しかしデトロイトから成田への便には乗っていない・・という回答がきたそうです。
それで回答は終わり。
娘はブチ切れて、僕が乗った便を調べた。そしたら2時間半ディレイしたことが判明。デトロイトから成田への便には乗れなかったんだろう!自社の飛行機のディレイ状況も把握していないのか!と怒りの電話をした。
そして「うちのダディはExtremely heavy Diabetesだから、もし空港で倒れていたら告訴するぞ!」と怒鳴ったそうです。
そしたら漸く僕の行動経路を調べて、確かに飛行機は遅れた。それなのでホテルの手配をした。しかしそのホテルにはいない。との回答が来たそうです。
娘は、飛行機会社の担当からホテルの電話番号を聞いて、自分でも確認したんですが、確かにホテルの回答は「そんな泊り客はいない」というものだったそうです。
それで娘は再度、航空会社に電話して、空港内を再度細かく調べてくれ、病気で倒れて病院に搬送されていないかどうかも調べてくれ。見つからなければ、一時間後に私が911してから、そちらに向かうぞ!と怒鳴ったそうです。
NYC側・東京側とも家族全員に、僕がしたチョンボで緊迫した一日を過ごさせてしまいました。
で。僕ですが・・・ラガーディアから独りで飛行機に乗ったンです。朝一番に皆に送られながらね。気温は-20℃くらい。雪交じり・・
ま。普通にチェックインして機内に入り込もうとしたら、CAが荷物をお預かりしましょうか?と言った。いつものように優先搭乗だったしね、ビジネス利用の時は、わりといつもあることなんで、ホイホイとTUMIのカートを預けちゃったんだ。でもそのときはエコノミーだった。・・これ間違いの始まり・・
飛行機に乗ったのはいいけど。飛ばない飛ばない。1時間以上飛ばない。そのうち動き出したと思ったら、途中で止まっちまう。でっかぃ放湯車が来て、飛行機に頭からお湯かけ始めた。それを延々とやってる。おかげで2時間以上ディレイになってしまった。
で。デトロイト。これも雪で着陸が中々できずに、着いた時は成田行きの飛行機はもういない。
まいったなぁ~そう思ってたら「トランジットの人は、一日我々が用意したホテルへ泊まってくれ」という案内が有った。ま。そんなこともあるサと簡単に考えて、窓口で言ったんだ。「乗るときに荷物を預けたんだけど」そしたら・・ない。どういうことだ?と詰問したら、調べたあげく、あなたから預かった荷物はカーゴの方に入れたので、成田に行ってる。成田で受け取ってくれ・・・と。
呆然としたね。実は、パスポート以外の全ての荷物は、そのTUMIのカートに入れてあったんだ。カメラもPCもiphoneもお金もカードも・・ポケットを探ったら、1000円札一枚と何10¢か小銭がチャラチャラ。でも。まあ・・送迎のバスが来たから、オタオタしながらそれに乗っちゃった。
その日は、寒さと雪で相当ディレィ便が沢山出たみたいで、ホテル行きのバスは満員だった。それで何軒かのホテルを周った後、僕はボロいホテルに下された。そしてカウンターでカギを渡された。
チェックインしてないんですよ。部屋の鍵、渡されただけ。
娘が安否の確認したって、判るわきゃない・・
そのうえ、持ってたのは、パスポートと明日のチケット、そしてディナーのバウチャーだけ。裸で寒空に放り出されるというのは、こういうことだな・・と実感した。
仕事柄ホテルを転々と歩く。もちろん良いのに当たるときもあるし、嫌なのにあたるときもある。
嫌なのは・・嫌な"気"のホテルだ。まあ、沢山の人が通り過ぎてく場所だからね。色々なこともあるんだろうね。そのホテルもそうだった。
でも散々待たされていたんで、オシッコしたくてね。鍵もらって部屋に入って、荷物なんか何もないから、そのままバスルーム入った。
・・そしたら
いたんだ。
バスルームのタブの中に。
"気"は感じることは有っても"見える"ことは、あんまりない。
でもその時は見ちゃったんだ。目まで合っちゃった。
ぐえ!と思ってドアを閉めた。シャ・シャイニングだぁぁ。
思わずそのまま部屋を飛び出しちゃった。
お・オシッコぉぉ。
仕方ないから、ボロ・ロビーに降りてトイレを借りた。そして「部屋替えてくれ。あの部屋はfeel badだ」と頼んだンだけど、他に開いてる部屋はない。今日はディレイで泊ってる客が多い、と言われてしまった。「それじゃ、あの風呂場のおんなを何とかしてくれ」と僕がジョーク混じりに言ったら・・カウンターの男、笑いもせずに黙って僕を見て首を振った。あ。こいつ、知ってるナ・・と思った。
いつまでもロビーにいるわけにいかないから、部屋に戻ったんだ。バスルームに行かなきゃいいだろと思ってね。ベットに座って、デカい音でTVを点けた。でもね。ポッタン・ポッタンとバスルームのシャワーから水漏れする音が聞こえてくるんだ。幻聴だよ。まちがいなく幻聴だ。だってTVの音、目いっぱいデカくしてたからね。でも聞こえるんだ。・・こっちおいで・こっちおいで・・ってね。
こりゃダメだ。そう思って、部屋飛び出して、またロビーへ。
で。デトロイト空港とホテルを繋ぐ無料シャトルバスの最終が、深夜の12時30分でした。
とっても割り振られた「シャイニング」部屋に戻る勇気がなくて、ホテルのロビーでまんじりとせず過ごした僕は、これに乗って空港国際線ターミナルへ戻った。
ポケットの中は数10¢・・水も買えない。まいったなぁ~
そう思いながら椅子に座って色々と考えていたら・・ふと思ったんです。飛行機2時間半、遅れたから、乗るはずの飛行機が飛んで行っちゃったンだよな・・なんで僕と同じ飛行機に乗ってた僕の荷物が、荷物だけソッチの飛行機に間に合ったの?それとも間に合わなかったから、荷物だけはカーゴ便で運んだの???そんなわきゃない。そう思ったのが朝の5時ごろ。
係員が何と言おうと、僕のTUMIのカートは、この空港にある!
な んでだろうね。そんな当たり前なことに気が付くまで一晩かかった・・お化けで相当動揺してたんだねぇ。
急いで飛行機会社のカウンターに行きました。そして調べてもらったんです。そしたら、その窓口で対応したオッサンが「ない」と。
でも信用できないね。そう思って別のカウンターに行って、同じことを言ってみた。ここでもないと言われたら、他のカウンターでまた聞こうと思ってた。そしたらしばらく手間取って・・有った!
「あなたの荷物は国内線のロストバゲッジのところにある」と。
!!! や・っ・ぱ・り!
アトランタ空港の国内線と国際線の間は、えらい離れてる。でも行くしかないね。空港職員に保管場所を聞きながら探し回った。
そしたら・・有った! ビニールテープでグルグル巻きにされて。おおおお僕の愛しいTUMIのカート。出会うまで2時間以上かかった。昨日から考えたら20時間以上・・
そしてようやくPCとお金が戻ってきて、そのまま開いてるファストフードに飛び込んでハンバーガを食べながら、皆に連絡が取れたんです。
娘は「あと10分、見つからなかったら911に電話しようと思ってた」そうでした。ほんとにほんとに、お騒がせしました。でも本人もぐったり。おかげでデトロイト・成田便の中では爆睡。目が覚めたら成田に着いていました。
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました