見出し画像

ノアの葡萄について01

ノアの葡萄について、少し書きたいと思います。
創世記の中に書かれるノアの葡萄の話は短い。大洪水の後、アララト山の麓に"それ"を植え、出来たワインを飲んで酩酊し寝込んでしまったという話です。しかし"J"が、わざわざそれを挿話する意味は大きかったに違いない。僕はそう思っています。

実はですね。そのノアと葡萄の話ですが、もう少し詳細に書かれているものがあります。バルク書です。
同書は、旧約聖書の正典・外典には入っていません。いわゆる偽典に分類されているものです。この「偽典」に分類されている文書ですが、全てキリスト生誕前を主題としておりヘブライ語あるいはアラム語で書かれているのが特長です。おそらく紀元前300年から紀元後100頃に書かれたものでろうと云われています。
その偽典の一つである「バルク黙示録」の中に、ノアと葡萄の出会いについて細かく書かれたものがあります。
以下、「新キリスト教事典」の引用です。
此処で言うノスティシズムとはmysticismのことでしょうね。

「本書は第三バルク書とも言われ、スラブ語のエノク書やシリア語のバルクの黙示録と同様にバルクの天上旅行のことを述べ、第一の天から始めて第五の天を旅行する所で中断されている。初代教会においては、オリゲネスもこの書に言及しているが、実際に発見されたのは,1896年にその写本が大英博物館で発見されジェームス(M.R.James)がこれを公刊した(Apocrypha Anecdota, II. Texts and Studies, V. 1, 1897)。本書はユダヤ教の立場から書いたものであるが、最後の晩餐における神(キリスト)の血としてのぶどう酒などに言及しているので、キリスト教徒の手も加わっている。著者は、シリア語のバルクの黙示録を知っていたようであるから、紀元第2世紀中に書かれたものであろう。著者は当時のノスティシズムまたはギリシァ的な混合宗教思想の影響を受けていたと察せられる。」

邦訳は教文館から刊行された「聖書外典偽典 別巻・補遺I」の中に有ります。土岐健治氏によるものです。
以下、引用です。

8.そこでわたしは云った。「あなたにお願いです、わたしに示してください、アダムを惑わせた木は何ですか?」
すると天使が云った。『葡萄の木だ、これを植えたのは天使サマエールだが、そのことに主なる神はお怒りになった。そして彼と彼の植え木とを呪われた。だからこそ、あの時それに触れることをアダムにお許しにならなかったわけだ。だからこそまた悪魔が妬んで、自分の葡萄の木で彼を欺いたのだ』。
9.そこでわたしバルウクは云った。『それでは、葡萄の木がそれほどの悪の原因であり、神から呪いを受け、初めに造られたものの堕落のもとであるからには、どうして、今ではこれほどの有用性をもっているのですか?』。
10.すると天使が云った。『そなたの質問は正しい。神が大地に大洪水を起こされ、あらゆる肉と40万9000の巨人たちを滅ぼし、水位が高山の上15ペーキュスまでも上昇したとき、水は楽園の中まで浸水し、花という花をダメにした。ただし、〔水は〕ブドウの蔓だけは完全に区別して、外に投げだした。
11.そして大地が水から出現し、ノーエが箱船から出てきたとき、見つけた植物から植え始めた。
12.こうして蔓も見つけ、取って、それがいったい何なのか心に思案した。そこでわたしが行って、それにまつわることを彼に云った。
13.すると彼が云った。「いったいこれを植えたらいいのですか、それともどうすれば? アダムがこれのせいで破滅したというなら。わたし自身もこれのせいで神の怒りを招きたくはない」。そしてそう言うと、それをどうしたらいいか神が自分に啓示してくださるよう祈った。
14.そして40日間にわたる祈りを成就し、あれこれお願いして、泣いて云った。「主よ、この植物についてどうすればいいかわたしに啓示してくださるようこいねがいます」。
15.そこで神は天使サラサエールをおつかわしになり、彼〔ノーエ〕に云った。「起て、ノーエよ、その蔓を植えよ、主が次のように言われるゆえに。この苦さは甘さに変えられるであろう、これの呪いは祝福になるであろう、これから生じるものは神の血となるであろう、そしてこれによって人間どもの種族が罰を受けたごとく、今度はイエースウス・クリストスのおかげで、これ〔葡萄〕によって復活(anaklesis)と、楽園への入場を授かることになろう」
16.こういう次第で、知りなさい、おお、バルウクよ、アダムがこの木のせいで罰を受け、神の栄光を剥ぎ取られたごとく、そのように今の人間たちも、これから生じる酒に飽くことをしらなければ、アダムよりもっとひどい違反を犯すことになり、神の栄光から遠く隔てられ、永遠の火にみずからをゆだねることになろう。
17.さもなければ、あらゆる善がこれによって生じる。というのは、これをがぶ飲みする者たちは、次のようなことをするのだ。兄弟も兄弟を憐れまず、父も息子を、生子も両親を〔憐れまず〕、酒の災いによって、ありとあらゆることが生じる、例えば、殺人、姦通、姦淫、偽誓、盗み、そしてそういったことに類似のことどもである。そしてこれによって善はなにひとつ正しくなされることがない』

この「ギリシア語のバルクの黙示録(第3バルク)」によると、アダムとエバがエデンの園で口にした"知恵の実"は葡萄の実であり、それか作ったワインに酩酊したために、二人は追われたと有ります。だからワインは重要な飲み物であると。
面白いですね。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました