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バーチェットのヒロシマ#01

イギリスの新聞「ディリー・エキスプレス」の契約記者、ウィルフレッド"ピーター"・バーチェットWilfred Graham Burchettが、広島に原爆が投下されたことを知ったのは、沖縄にいたときである。1945年8月6日である。
彼の残した記述によると、そのとき彼は沖縄海兵中隊の炊事場で、昼食の長い列に並んでいたという。すぐ傍で、真空管式のラジオが雑音交じりで流れていた。何を言っているのか、聞き取れないほど不鮮明だった。しかし妙にアナウンサーが興奮している。バーチェットは列に並ぶの止めて、ラジオの傍へ行った。そしてその傍にいた炊事係に声をかけた。
「なにか有ったのかい?」
「ああ、日本になんか新型のとてつもない爆弾を落としたそうだ。」炊事係が言った。
沖縄は、すでに連合軍に平定され、公式には安全地帯ということになっていた。しかし日本軍の残党はまだジャングルに潜み、執拗な抵抗を見せていた。いよいよ本土決戦になれば・・たしかに米軍は圧倒的な兵力で勝つ。しかし無限に続くゲリラ戦に巻き込まれるのは必至だ。兵隊たちには、それが分かっていた。だから余計に全員が殺伐とした気分でいた。
兵隊も民間人も・女も子供も・老人も・・すべて殺して日本列島を無人の地にしない限り、インディアンのように日本人は我々に牙を剥き続ける。。全員がそう思っていた。
「とてつもない爆弾?」
「ああ。街一つ消滅しちまうくらいのサイズだそうだ。俺たちにゃGoodNewsだな。そんなのを続けざまに落としてくれりゃ、俺たちは死に行かなくてすむ。」炊事係は笑わないまま言った。

バーチェットはアルミの食器の乗ったトレーをそのまま置いてメディアセンターへ小走りで向かった。そして入り口の傍にいた将校に声をかけた。
「新型爆弾って、なんだ。どのくらいの破壊威力なんだ。どこで使用したんだ。東京か?」
「わからん、我々が知ってるのは、お前が知ってることと変わらない。我々もラジオを聞いて初めて知ったんだ。いま問い合わせてるところだ。」
「事前の連絡もなかったのか?」バーチェットは畳みかけるように言った。
「ああ、ない。全てはこれからだ。」将校はそっけなく言った。そしてバーチェットに背中を向けた。それ以上は話をするつもりはない、という態度だった。
「何発、あるんだ。幾つ使うつもりなんだ。」バーチェットは将校の背中に怒鳴った。将校は肩を竦めるだけだ。
バーチェットは憤然としながらメディアセンターを出た。

沖縄海兵中隊本部で聞いてやる!作戦課なら知ってるはずだ!そう思って母屋に向かって歩いているとき、横からふいに声をかけられた。
「ディリー・エキスプレスの記者さんだよな」
バーチェットは思わず立ち止まった。声をかけてきたのはアジアンの小男だった。あまりにも完全な英語だったので、驚いて立ち止まったのだ。
「そうだが・・君は?」
「爆弾はオッペンハイマーが作った核分裂を利用した新型爆弾だ。ついこの間ネバダの砂漠で爆発実験を成功されたばっかりものだ。作戦課の奴に聞くなら、そこまで知ってることを言うと良い、あいつらは青くなるぜ」
「君は・・だれだ」
「俺はkappaだ。落とされたのはヒロシマだ。俺の故郷だ。お前、取材に行くだろ?東京の同盟通信社なら手伝ってくれる。俺を通訳として連れていけ。案内する」それだけ言うと、アジアンの小男は手を振っていなくなった。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました