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ちょっとフィクション/他愛もない夜のこと。

ベランダに出て、
ひとにもらったマッチで火をつけて、
口のなかに煙を吸いいれた。

さっきシャワーを浴びながら、
考えていた次の行動を実行している。
舌先がびりびりと痺れる心地がする。

この事がばれたら、
たばこ嫌いの彼女に軽蔑されるだろうか。
彼女の顔が自然とぼやりと浮かんだ。

酔った頭で想像上の彼女の目の前で、
軽蔑される救いようのない私を思い浮かべていたら、
たばこは私の手をするりと離れて、
一階まで落ちてしまった。

思考は現実へと戻ってきた。
やってしまった。
そんなことは多分ないだろうけれど、
万が一にでも小火騒ぎにでもなれば、
私は責任を負いかねません。

即刻樹脂製のサンダルを履いて、
火の元の回収に急いだ。

敢えて弁解しておくならば、
たばこといっても度々吸わねばならないとか、
そう思うほどたばこに依存してはいない。
そもそも本来的な意味でのたばこではない。

たばこに詳しくもないので、
本来的でないというのは甚だ疑問だけど、
今舌を痺れさせるこれは茶葉を巻いたたばこ、
つまり茶たばこというものだ。

だけどわざわざ体に煙をいれる時点で、
それほど良いものでもないのだろう。
鼻の奥に残る刺さるような刺激が、
階段を下る私に有害性を主張してきたところだ。

ちなみに彼女というのも恋愛関係のものでなく、
単に三人称としての彼女でしかない。
私に恋人はいない。彼氏も彼女も。
まあそんなことは私自身と関係がない。

火がついたままのたばこを回収して、
ベランダに戻って新しく火をつけた。
配慮も依存もしていない。
ただ私のきまぐれのためだけのたばこだ。

多分彼女は軽蔑しないだろう。
あえて私が言うことが無いから。
言ったとしても多分彼女は軽蔑しない。
彼女は多分そういう人間だから。
そういう信仰をしているから。

我に帰った。
煙をもてあそぶのも飽きてしまった。
酔いも回って意識が浮き沈みもしていた。
明日は月曜日で私の基準で朝は早い。
今晩は大人しく寝てしまおう。

たばことマッチの箱を回収して、
吸い殻の入ったツナ缶の殻は未来の自分に託して、
部屋に唯一ある大きな窓を閉めた。

歯を磨いて服を替えて、
寝床に入って部屋の電気を消した。
スマホの充電器の発する光と、
髪の毛に残る微かな煙の気配が、
脳の端を糸で引っ張るみたいに、
淡々と私が眠るのを妨げるのだった。

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