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ちょっとフィクション/スマートフォンに愛着はない。

スマートフォンに愛着はない。

たくさん撮りためた写真、
友達と言葉を交わしたライン、
フルコンボをたたき出したゲームアプリのデータ。

それらに愛着はあれど、
何の飾り気もない真っ黒でシンプルな、
スマートフォン本体に愛着はない。

自宅に届いた最新機種にデータを移し終え、
中にあるものすべて過去のものとなった、
その古いスマホを眺めてそう思っていた。

携帯会社宛に送る用意をして、
あとはポストに投函するだけにして、
新しいスマホを枕元に置いて、
眠りについた。

こういう前置きから始まる夢といえば、
「なぜ僕を見捨ててしまうんだ」
「許さない」とか、
古いスマホの恨みつらみを聞く悪夢か、

「初めて君の元にきてからもう3年」
「あっという間だったね」
「大切に使ってくれてありがとう」とか、
正直寒気のするハートフルストーリーか。

そういう思い込みがあるけれど、
私は全く違う夢を見ていた。
というか思索に耽っていた。

古いスマホは私の脳みその、
限られたアニメーション表現能力によって。
3Dアニメーション調で宙に浮かんでいた。

スマホはパラパラと分解されていく。
具体的にどこをどう動かしたら、
どう引っ張ったら分解できるのか分からない。
分解されたら何が出てくるのか分からない。
スマホの中身の知識がないから。

ともかくスマホはバラバラになって、
どこだか分からないところから細い金属や、
小さい金属がたくさんちぎれて出てくる。
細かい部分にめずらしい金属が、
いろいろ使われていることは知っている。

本来はそれらのパーツが集められて溶かされて、
また似たようなパーツに新しく、
作り替えられるのだろうけど、
具体的な過程が分からない。
ちぎれた金属はピカピカになった。

ピカピカの金属を中心にして、
どこからともなく新しいモニターとか、
フレームとかボタンとかがすうっと集まってきて、
合体して新品のスマホが出来上がる。
何をどうやって合体するのかは知らないけれど。

「古いスマホが新しいスマホに変わるまで」
理屈が全く通っていないそのアニメーションに、
頭の中で名前をつけた。
気づけば朝になっていた。
意味の分からない満足感とともに目が覚めた。

家を出て地下鉄の駅へ向かう。
もちろん古いスマホを忘れずに。
ポストにそれを投函すると、
パソコンがDVDを吸い込んだみたいに、
頭の中で夢に見た、
アニメーションがまた流れ出した。

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