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猫と王子さま

僕は猫で当然寒がりだ。

そんな僕の為かどうか分からないが母さんが「これ使う?」と言ってふわふわしたモノを持ってきた。

それは母さんが長年使ってきた「枕」というものらしい。

「よく洗ってるから汚くないよ」という言い訳がましいことを述べながらそれをソファの上にポンっと置いた。

どれどれ、僕は見慣れぬそれの匂いを嗅ぎおもむろに片足を乗せてみる。

うむむ・・ずぶずぶと沈んでゆくような不思議な感覚!

すっかり気持ちよくなった僕はコロンと寝転がりそのまま眠りに落ちた。

               ○

               ↓

               ○

               ↓

               ○

うつむく王子さま

・・「ねぇ、君、ちょっとでいいから私の話を聞いてくれないか?」

僕のすぐ側で誰かが話し掛けてきた。 

うん?なんだ?。もしかしてまた夢の世界なの?!

今、とても眠いのだけど・・まぁいいか。 

僕もそれぐらいの親切心はある猫だ。

          ⭐︎    ⭐︎   ⭐︎  

「私はこの枕の主が想像で創り上げた『王子さま』と言う者だ」

王子さまは膝を抱えた格好でボソボソと話を続ける。

「私は枕の主の精神安定剤だった」

「小さな子供がヌイグルミを抱いて安心するように枕の主は私の出演した映画を思い浮かべては心の糧にしていた」

「私たちは夢の中で何年も何十年も一緒にいるものだと思っていた」

「だが・・人間というものは変わっていくものだ。私は次第に思い出されなくなっていった」

王子さまは顔を上げてこちらを向いた。

身体全体がぼんやりと霞んで今にも消えてしまいそうだった。

「・・どうやら私は忘れ去られた夢らしい」

王子さまは寂しそうに笑った。

         ⭐︎    ⭐︎   ⭐︎             

そうだね、王子さま。

人間たちは確かに忘れっぽい。

僕が思うに人間は抱えるものが多すぎるんだよ。

そして大事なものを知らない間にポコポコと落っことしているんだ。

その点、猫はシンプルでいいよ。

ゴハンと暖かい寝床と面倒を見てくれる飼い主がいれば良いのだから。

          ⭐︎    ⭐︎   ⭐︎  

王子さまと僕は並んで夢の中の風景をしばらく眺めていた。

ふと横を見ると王子さまは居なくなっていた。


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