《ⅰ》ネオチェリーブロッサム空港
街灯の光だけを頼りに歩く。
こんな夜も深い時間に、人は街を歩かないんだ。
そんな消えかけの薄暗い灯りの先に
遠くからでも目が眩むような光を放つ建物があった。
「ライブハウス?」
こんなところにあったんだ。
昔、友達とロックバンドを追っていたのを思い出した。
たまには良いか、と不自然にも吸い込まれるように
ライブハウスの中へと引っ張られていった。
フロアは、ほぼ満員と言っていい程に人が溢れかえっていた。
今は視界から入る、この五月蝿さが心地良い。
さっきの静まり返った街中とのギャップに脳の奥深くがズキズキと痛んだ。
揉みくちゃな若者の先には4人のバンドマン。
一際目を引く金青の髪をしたボーカル。
深く力強くて美しい歌声に、一瞬で魅了された。
お酒を飲むのも忘れて聴き入っていた。
ずっと目が合っているような…
そんなのは気のせいだ、と自分を諭す。
最後の曲が終わり、転換のタイミングでドリンクチケットの存在を思い出す。
バーカウンターでジンライムを頼む。
今日くらいは、仕事も何もかも忘れて好きに時間を過ごすんだ。
そう思った矢先、誰かが私の肩を叩く。
目に金青の髪が映る。
何かを思う隙もなく、唇が重なる。
「さっき、ずっと目が合ってたよね?」
気のせいじゃなかったんだと、妙に腑に落ちた。
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