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最大の悲劇は悪人の暴挙ではなく、善人の沈黙である。

先日たまたま見たNHKのドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」のワンシーンに心が乱された。

そもそも、我が家は「NHKって面白いよね〜」派なので、割と民放+NHKと同列にチェックしている。

そもそも、このドラマの主人公は大学の広報マンで、舞台も大学である。次々に巻き起こる不祥事に振り回され、その場しのぎで逃げ切ろうとして追い込まれていくのだが、その内容が現実世界で起きている出来事にとても似ているというか…。(実際に起きていそうで怖い出来事ばかり…。)


で、本題のシーンの言葉は、第3話のクライマックスと言っていい場面だった。

「問題に対して沈黙するようになったとき、我々の命は終わりに向かい始める。そして最大の悲劇は、悪人の暴挙ではなく善人の沈黙である」

これはキング牧師の名言と言われているものを引用したものです。


とてもゾクっとしてしまったのは、私だけじゃないと信じたいですが…。

このシーンを見て最初に思い出したのは、およそ1年前に行った、COVID-19が最初に流行して大学が止まった時に実施した緊急アンケートです。

この時のみんなの感情や気分だったり、認識を見返すことができるので、これはまだ公開(きっと私が生きてる限りオープン)データとして置いておきます。

この設問、とても多く協力いただいた皆さんに1年越しでも感謝を伝えたいのだが、実際に私が始めたアンケートによって少しは影響があったかな、と思いたい。


で、設問の中に「大学から発信された情報はどうですか?」というものがある。この設問の選択肢を私はあえて「非常に満足・満足・どちらとも言えない・不満・非常に不満」に加えて「期待していない」を入れた。かなりショッキングな言葉かもしれないが、リスクコミュニケーションとして、期待感が無い情報は非常にまずいと思ったからだ。

その、まずいと思ったことが的中してしまったのが、このアンケートだった。大学から発信された媒体の全てにおいて一定数「期待していない」と答えた人がいた。(いずれの媒体においても、大体20%の人は期待していなかった。)

この時私は、大学から発信している情報に期待されていなければ、発信していないのと変わらない、という危機感を抱くとともに、こんなにも大学への期待が薄いのに、うちの学生のほとんどは声を上げることをしていない、という危機感を同時に抱いていた。


そして、1年越しに思い出したのであった。私たちが善人であるかは全く分からないから置いておくとして、沈黙することは、悲劇の始まりだと知っている私に何ができるか、を考えられる人びとが居ることが大切だと思った。

果たして、今の大学にそうした人材はいるだろうか。教育の高度化と専門化によって、私たちは教育を享受することに当たり前になっていないだろうか。サービスを享受することと、学ぶことは一線を引かなければならない。

学ぶことを止められることに対して、沈黙することがあってはならない。もちろん、支払った金額に応じたサービスを受けられないことに対しても、沈黙することは許されないはずだが。


COVID-19が私たちの社会に覆い被さってからというもの、人びとは静かになったように思う。人々は自分の殻に篭り、言いたいことは匿名で曝け出す。それは、もはや沈黙と同一である。

しかしながら、みんなが受け流していることに疑問を持ち、声を上げ、それはなぜか、と問い続けられる環境が、今の大学にはないのが現状かもしれない。声を上げても、遠くまで届かない環境かもしれない。

それでも、私たちデザイナーやクリエイターは声以外にも沈黙を破れるチカラを持っているはずだ。表現することで、何かが変わるかもしれない、そう信じて私は生きていきたい。(私が生き続けようと思っているその時まで。)


しかしながら、ドラマはこれでは終わらなかった。

大学で総長の権限は「絶対的」で、権限の使い方によっては「独裁」につながる可能性があるわけだ。現総長は善人だが、仮に次の総長が「悪人」だったとしよう。善人の総長が行使した権限という前例によって「悪人の独裁を導く」ことになってしまう。こんなシーンがエンディング間際に出てきて、またもや恐ろしい気分に…。

声を上げれば、その人についていく人が増え、声を上げた人に権限が集まる。その人の後継者に権限が引き継がれたときに、何が起きるのか。

善人の沈黙は最大の悲劇だが、その次の悲劇が待ち受けているのもまた、事実だとするならば、私たちに残された手段は…。


「世界は悲しくなるほど複雑に思える日もあれば、難しいことなど何もないかのような幸せな夜もある」

私だって、毎晩、幸せな夜だったらいいな、と願っているが、社会がそうさせてくれないみたいです。

今ここにある危機、それを感じ取れる人がうちの大学に増えるといいのに…。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。 皆さんから頂く「スキ」とか、コメントとかがとてもうれしいです。 なんだかもう少し頑張って生きることができそうです。 いただいたサポートは、毎日わたしが生きやすい世界になるために使います。 これからも、どうぞよろしくおねがいします。