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書けん日記:14 天

先日は、自己管理の失敗どころかインフルエンザ、まさに流行性感冒にやられた不肖が、お見苦しいところをお見せしてしまいました。そしてこの不肖には過分なお見舞い、励ましのお言葉を頂いてしまいまして感謝の言葉もございません……と、言葉が無ければアカンこのお仕事。皆様、本当にありがとうございました!!
これから冷え込みと空気の乾燥が強まる季節――みなさまも、流行性な患いにはお気をつけて頂き、ご自愛のほどを……。

そして。
体調が回復、なんとか固形の食事が取れるようになってきた不肖めは。
予防措置として、現地ではなくネットで。チャットでの打ち合わせを進めていた際に。ちゃんと食事していますよ、という流れで。打ち合わせ先に、これから食べるお弁当の画像、送ったんですよ。お弁当。そしたらなんか()

不肖「やっと茶碗蒸し以外のものが食べられます。きょうはこんな弁当を買ってみたんですよ」
T氏「うむ。誤字脱字に気をつけて食えよ。ん……チキンカツ弁当? んっ、ん?」
不肖「いえ、とり天です。三河のお弁当だと、定番で美味しいですよ。とり天弁当」
T氏「や、でも、ラベル…(なんだこれ)」

不肖「アッ」
T氏「三河じゃ、揚げたらみんなカツなのか。ありそうではある」
不肖「いや、そんなはずは……。 ありゅえ、でもたしか。……アッ」

無情に冷えてゆくムネチキンカツ弁当を前に――
不肖の、まだインフルの高熱に焦土にされかけた脳裏、記憶の中で。
そういえば……ここ三河、とくに不肖の住むこのあたりでは。
一口サイズの、小さいとり天は「とり天」で売られたり、居酒屋のメニューにあったが。このお弁当のような、ムネ一枚を揚げたようなものは「チキンカツ」の名で並べられていること、あるよね、あるね。……と。その横で、しっかりと。とんかつのようにパン粉の衣つけてカリっときつね色に揚げられたチキンカツも売っている。見たよね。見たね。……と。

不肖「うん。これはチキンカツなのです。三河の、いち地方では」
T氏「揚げ物の 法則が 乱れる まあ、カツの歴史は混迷の歴史と――」

揚げ物、天ぷら。カツ。

『近代食文化研究会』様の、実に濃厚かつ、読む栄養たっぷり。まさに上質なとんかつの如きこの記事が公開されておりまして。
掲題の通りの、言われてみれば確かに。な疑問について、幕末期からはじまる日本と西洋の交流を紐解きながら、実に読みやすく明解な記事としてまとめられております。

その、まさに木曽三川のように支流出来まくりな大河のように。揚げ物の歴史と名称が変遷してゆく中、なぜ三河のいち地方では、鶏の胸肉天ぷらは「とり天」ではなく「チキンカツ」なのか――これは、売り場で見つけるたびに担当スタッフさんに聞いてみて、歴史をたどるべき……? とか、少々迷惑なことを不肖は考えつつ。

手持ちの資料で、「カツレツ」の変遷をパラパラと調べてみると。
――日本近代史、幕末を触るともう。必ず出てくる大偉人。
懐かしの少年漫画『MMR』にて、キバヤシ氏の前に何度も立ちはだかるノストラダムスのごとく。日本近代史ではどこにでも影響を残している大偉人、福澤諭吉先生の著作「増訂華英通語」、当時の中国語と英語の対訳にカタカナを付記した辞書に
「Cutlet コットレト  吉列」
という記載があり、これが日本に、最初にコトレット、カツレツが紹介されたものとされている。
――これが、またややこしい。
フランス語のコートレット côtelette は、本来は仔牛肉のスライスにフレーバーや粉を付けて焼いた料理。
cutlet は、英語だと、肉の切り身などを表す。
吉列 は、中国語で肉や魚のフライなどのこと。
……ありゅえ。福澤先生。
もしやこれ、誤訳っぽいのをそのまま流通させてしまったのでは? などと、不遜な事を考えつつ。もしか中国語の「吉列」を日本語読みして「キチレツ カツレツ」とかね……まさかね。
あの大偉人が、まさか。とは思いつつ。
されど、福澤先生の記録を紐解くと――大阪の適塾では塾長までこなすバリバリのインテリ、オランダ語はまかせろー、な蘭学エリートの福澤先生は。1859年に江戸、そして当時の外国人居住区であった横浜にでて、そこで己の蘭学ちから を試そうとするも……そこにあったのは英語ばかりで、なぜ俺はあんな無駄な蘭学を…と絶望しかけるも、さすが大偉人。そこから英語の猛勉強をはじめ、幕末から明治維新、そして近代日本の学問的礎を築いた福澤諭吉先生となるのですが。
1860年の「増訂華英通語」。
……もしや。福澤せんせー、まだこの頃は英語の猛勉強中で。ちょっとやってしまったのかも。などと、不遜の裏打ちなどもして。

――やはり。
日本の揚げ物、フライとカツの文化史は、スタート時から混迷の中にありました……。
……その混迷が、なぜ三河のいち地方では「とり天」が「チキンカツ」なのかは――情報が入り次第、追ってご報告を。

T氏「三河とり天文化かー。美味そうなネタだが。それより止まってた作業がだな」
不肖「すみませんすみません。……アッ。そういえば。揚げ物といえば、以前のSSの」

この、揚げ物のあれこれ。以前にやった既視感が……と思ったら。
アメリカンなマフィアもので。それにまつわる様々のテキストで。
イケメンでデキルスタイルのマフィア、アッ、全員そうじゃった。のボスになった金髪の若者に、先代のボスが食べさせたのがコトレット。仔牛肉の薄切りを、パン粉を付けて揚げて、それにレモンの味しかしねえくらいにレモンを絞って食べる屋台料理。
これは私の東京時代に、宵の口になるとふらふらと通っていた洋風立ち飲みでよく食べていた料理の記憶が根底に。
いつもの一杯。日によっては、栓が抜かれて気が抜けてた発泡白ワインで舌と喉を洗い。二杯目、三杯目で油っけ、肉っけが欲しくなってくると。いつもメニューにあるコトレットを頼んで、むしゃむしゃ。サービスのパンを、肉の脂と白ワインで流しつつ……。
そして。
私が「これ薄切りとんかつ?」と問うと「ノンノン、コトレット」と身体も顔も全てのパーツが丸っこいマスターが自信たっぷりに笑って返してくれた、思い出。

アルコールで白濁しつつも、忘れられない……思い出。
記憶を濁らせ、ダメにするはずのアルコールが――なにかの付箋のように、いくら絡み合っていても引けば、その先にある忘れていた記憶を ぐらり 揺らせて、思い起こさせてくれて。

これは、名古屋に私が場を移して。
ある夜、T氏と、同志テキスト書きのS氏と不肖の3人で。行きつけのバーで打ち合わせ、からの歓談。からのー。酒が進んで、他愛もない駄弁りとか、他の作品のネタが出ては消える酒の席で。
不肖「夜中、飲んでると腹減りませんか。メニューに、うまそうな揚げ物が」
T氏「おっそうだな。でもおまえがメニュー選ぶと、外すこと多いからなー。店選ぶと、ハズレ以前に閉まってること多すぎるぞ。まあいいや」
不肖「飲むときは、揚げ物、脂っ気で胃を守るといいとか」
T氏「締め切りを守る脂っ気があればなあ。 マスター、これをひとつ」

――注文された『フライ七種盛り』。

その皿が出るまで、T氏はビールを、同席のS氏はお茶を。私はパスティスなど傾けて。
そして。七種類のフライのノッた、見栄えは上出来の一皿が。我らのテーブルに。
不肖「あ~いいっすねえ。ではひとつ……。……ん」
T氏「……フライドポテトだな。それ。……これは。フレンチフライだ」
S氏「ポテトチップス、頂きます。……そっちは、波切りのポテトチップスですね」
不肖「……アッ。これ、ハッシュドポテト」
T氏「5品がイモばっかじゃねーか。これだから三河もんが選ぶと」
不肖「スミマセンスミマセン……大丈夫です、あと2品、あります。これは見た目がイモじゃない」
不肖「こっちはたぶん、さきイカのフライ。こっちは、イカのリングフライですよ」
S氏「……これ、ごぼうのフライですね」
T氏「……。これ、イカリングじゃなくて、オニオンリングじゃねーか」
S氏「脂っ気ではなく、油っ気しかありませんでしたね」
T氏「やっぱり、おまえが選ぶとダメじゃねーか。積み重ねられる不成功体験、乙」
不肖「そんなー。許してください、なんでも書きますから」
T氏「今」

――この光景。ちゃっかり、ネタにしたこのやらかし。
不肖のnoteをご覧になって頂いている方であれば、お読みになった方もいらっしゃるかもしれない。そんな、あるテキストのラストシーンを思い出して頂ければ、書けん物書きとしてさいわいであります。


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