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書けん日記:15 つとむ。

或る日のこと。一般の休日。書けん作家の書けない、日。
不肖は、地元三河で農業を営む弟の家におじゃまして、以前に手伝った農作業の分前、お米や野菜をもらったり書類を書いたりして、平和な午後を過ごしていた。
そうして、夕食も弟の家で食べていこうかなどという話をしていたとき。それまで、家のそこかしこにいてちょくちょく顔を出していた姪っ子、一族の中でもいちばん年少のその子が。それまでずっと、何かを窺うようにこちらを見、だが黙って。あきらかに何かの「機」を見ていたその子が。

姪「……おじさん。ちょっとお願いがあるんだけど」
不肖「まだクリスマスは先だが。なにかね」
姪「今度の日曜日なんだけど……ちょっと車に乗せてほしい」
不肖「ん? またアニ◯イトとかに行きたいの? ママはいいって言った?」
姪「ママはいいって。おじさんにお願いしたら、って。でもアニ◯イトじゃなく」

――話を聞いてみると。どうやら、スマートフォン、アプリゲームの名作。
『ポケモンGO』に、姪っ子はハマっているらしく。

次の休日、その『ポケモンGO』のイベントがある、と。そのイベントに姪っ子は参加し、どうしても欲しいポケモンがあるのだ、という。

不肖「GOということは位置情報ゲームか。なるほど。家にいたらゲットだぜ!できないから……車で、そういうのの湧きポイントを回りたいと」
姪「うん。イベントの時間は決まってるから、その時だけ。いいかなあ」

不肖そして小人を絵に書いたらボツを食らったようなこの私。
子のいない身としては、せめて親戚の子供ぐらいには良くしてあげたいもの――それに、他の甥っ子姪っ子たちはもう大きくなって、もうお年玉を渡すことも無くなった今日このごろ。
不肖は姪っ子の頼みを了承し、そして……次の休日。

車で向かった弟の家で、不肖は。
スマフォとタブレット、丸っこいポケモンのボール? 携帯バッテリーをもった姪っ子を車の助手席の乗せて。イベントの開始を待つこととなった。

不肖「まず、どこにいけばいいの。車停められない場所もあるからね」
姪「だいじょうぶ。まずは……まえに迎えに来てもらった塾。あすこ」
不肖「あの駐車場ね。……塾に湧きポイントが?」
姪「あそこには◯◯君の置いたジムがあるから。私と同じブルーだから」
不肖「なぜ学びやの塾に置くのか。……おじさん、身につまされて嬉しいやら悲しやら」
姪「このあたりは、ブルー弱いんだよね。みんなレッド。強い方ばっかりいっちゃう」

……などと。『ポケモンGO』をやっていない私だと??な会話をしつつ、不肖は姪っ子を乗せて塾へ、その駐車場へ――そして……イベントが。
『ポケモンGO』「コミュニティ・デイ ~きんこつポケモンを解明せよ!」が始まった。

車を運転する私の横で、姪っ子は一心不乱にスマフォに向かいポケモンをゲットしている。
姪「次は、あすこのスーパーにいれて。それがおわったら、さっきの塾に戻って」
不肖「かしこまり。……こんなに忙しいゲームだったとは」
姪「あっ! あのコンビニ! 誰か◯人がルアー焚いてる。乗っかるから寄って!」
不肖「そういうこと言うもんじゃあないよ」
姪「このルアーが消えたら、あとはおじさんの走りやすいように流して」
不肖「ン? どこか決まった場所に湧くのではなく?」
姪「イベントのときはそこら中に出る。だからテキトーに流してくれたまえ運転手くん」
不肖「……なるほど。あれ、じゃあさっきの塾とか、さっきのお寺とかのジムに寄ったのはなにゆえ?」
姪「ジムに行くとボールが補充できるし、他にもポケモン置けたり……。…………」
不肖「どうしたのかね、ギガでもいっぱいになった?」
姪「……キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
不肖「!? なにが」

助手席で狂喜している姪っ子の様子に、不肖は車を手近なコンビニの駐車場に入れ。
不肖「いいレアポケモンでもとれたの?」
姪「全部マックスのドッコラーきた! とれたあああ! あとはアメ、飴!」

どれ、と。ポケモンを知らない私が画面を見てみると……。

https://www.pokemongo.jp/

不肖「……リスだ。リスが、角材持ってる」
姪「この子もってなかったの。しかもめっちゃ強いのとれたー!」
不肖「強い? ……最近のポケモンは、物理で相手を殴りに行くのか……」
姪「もう、手持ち全部突っ込んでこの子を進化させる! 決めた!」

姪っ子は、並々ならぬ決意で画面に向かい、何かを操作。そしてさっき拾った強個体のポケモンに、リソースを注ぎ込んで、そして――
姪「できたあああ! かくとうがめっちゃ強い『ローブシン』!」
不肖「……格闘? 最近のポケモンはステゴロをするのか……ン?」
不肖「あれ? さっきの角材持ったリスは? なにこの おっさん」

https://www.pokemongo.jp/

姪「おっさんじゃないよう! ローブシンっていうかくとうポケモン!」
不肖「両手に鉄筋コンクリート持って……これ、土建かなにかの労務者おじさんなのでは? しかもこの身長と体重が生々しいというか」
姪「違うよー。人間型だけど、こういうポケモンだよ」
不肖「姪ちゃん、これ。キミ、間違えてその辺のおっさんにボールぶつけなかった?」
姪「ローブシンだよ。さっきの、ドッコラーから進化させたの」
不肖「……リスが人間になるのか。恐ろしい世界じゃ。……やっぱりおっさんじゃない?」
姪「……まあ、おじさんっぽい顔だけど――」

イベントは、終わった――
不肖は、車を走らせ。姪っ子を弟の家まで送りながら。
不肖「姪ちゃんはさっきのリスを進化せたつもりだったんだろうけど……たぶん、途中で入れ替わったんだよ。そのおっさんに」
姪「うそでしょー。そのへんのおっさん、こんなに強くないもん」
不肖「――彼の名は。つとむ。柴田務。東京タワーと同じ年に生まれた、そして土建の現場で育った生粋の労務者なんだ。学校を出ると同時に現場で働き、土建、土木、鳶。様々の仕事で働き、日本の高度経済成長を支えてきた影のヒーローなんだ」
姪「やめてよそういうの。……誰よ、つとむって。ローブシンだよ」
不肖「務は定年まで現場で働いたが。妻に先立たれ、子どもたちもみな自立して親元を離れ……寂しい老後を一人、送っていたんだ。老いてなお屈強な身体も、もはや現場には居場所もなく」
不肖「荒っぽい現場を生き抜いてきたつとむは、やくざ者や外道とステゴロで渡り合って生き延び、現場を守ってきた……が。その力も、今となってはもう隠すべき凶器でしか無かったんだ」
姪「……かわいそう、つとむ」
不肖「だが、そんな或る日。つとむは、出会ってしまったんだ。小さなポケモンに。戦うため、角材を抱えて殴り合う。修羅の道に足を踏み入れたリス、ドッコラーと……つとむは、出会ってしまった」
姪「そのドッコラーが、つとむ……じゃない、ローブシンになったんだよ」
不肖「つとむは。戦いに明け暮れる、その小さなポケモンをあわれんで――
『リス。おまえは森に帰れ。その角材を置いて、ただのリスに戻るんじゃ』
『おまえの代わりは、このわしがやってやる。殴り合いの、修羅の道に落ちるのは、わしだけでええ』
『わしには、年食ってだいぶヤレたがこの腕と、昔はヤー公のダンプも叩き潰したこの鉄筋がある』
――こうして。柴田務さんは、姪ちゃんのポケモンになったんだ」
姪「……ひどい、おじさん。私のポケモンに変な設定つけた。……あっ」
不肖「まだ、なにかレアポケモンいた?」
姪「ロケット団の気球! やっつける! よぉし、つとむ!」

https://www.pokemongo.jp/

『ロケットだかボケっとだかしらんが。罪のない子度を脅して大切なポケモンを奪う外道ども。絶対に許せねえ! このわしの鉄骨で、手前らの性根を叩き直してくれる!』
「おじさん、うるさい」

姪「……つとむ、強い! よかったあ、今日とれてよかったあ」
不肖「それはなにより。つとむも、第二の人生と居場所を見つけられてよかった」
姪「ポケモンは、ズリの実とかキズぐすりをあげるんだけど。つとむはオニころしとかでいいのかな?」
不肖「いいね。あまり高いお酒だと、喉がびっくりして酔えねえ。って」
姪「うん。…………あーーー! おじさんのせいで! ローブシンがおっさんになった!」
不肖「正直すまん」

――2016年のリリースから、7年を越えてなお愛される名作ゲーム。
そして、世代を超えて楽しめるたのしいゲーム。『ポケモンGO』。
おすすめです。

……そして。全国のつとむさん、ごめんなさい。


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