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書けん日記:17 三河鶏天文化序説

昨日。うちでとり天作ってみたんですよ。とり天。
そうしたらですね。

――失敗しました テテーンやらかし効果音

揚げ物料理は難しいですね……そりゃあ、プロのお店は美味しいしお値段も高いわけだ、などと謎の納得をしつつ。

私のとり天の失敗は、いくつも原因がありますが――
1.まず素材の鶏ムネ肉のカットが不揃いだったこと。
2.揚げ油の鍋が小さすぎ、揚げ油少なすぎで、油温が安定しない。
3.衣の溶き粉が薄すぎ、ゆるい。揚げていると剥がれてくる。
――はい。どれ一つあっても失敗しますね。それが三つ揃い。

失敗とり天。まあ……火は通ってるから食べられるだろうな、と悲しい納得を自分にさせていた私は、ふと……その日、諸処の事情で親戚の家に行く用事があったのを思い出し。
そして、その家にはわんこが、飼い犬がいたことも思い出し。
とり天の肉自体には下味をつけていないので、衣を洗い落としていけば、これ。わんこのおやつになるのでは? と責任転嫁を思いついた私は、ええ。親戚の家に行ったんですよ。親戚の家。

そしたらですね。
『キク』ちゃんが私をお出迎えしてくれたんですよ。もうね、かわいいですね。わんこは。

これはおやつがもらえると期待しているキクちゃん

そして。私は、わんこおやつ用に下ごしらえ(逃避)してきた元とり天のムネ肉をですね、あげてみたんですよ、差し出したんです。
そしたら――

これはとり天だったものを差し出されたキクちゃん

……うん。
だめなものはだめ。失敗はしっぱい。あかんものはアカン。小さいものは小さい。書けん作家は()
という世の中の道理を、キクちゃんに教えられてすごすご家に戻った私でした。

気を取り直して――
先日、行きつけのスーパーで買ったお弁当から始まった「とり天」そして「チキンカツ」。

私と揚げ物、フライ、そして三河の食文化を巡る……旅路。
それについて、失敗作のとり天を――キクちゃんが無言で拒否したそれを、グリルで焼き直したやつをおかずに夕食を取ってから、再び。その考察へ、三河の食文化を巡る旅へと、私は戻った次第で。

まずは基本から。最初の疑問から……。

とり天。それは鶏肉の天ぷら。
それがどうして三河のいち地方では、チキンカツと呼ばれる文化があるのか。
インターネットで調べてみると――

とり天は、大分県は別府発祥とのこと。

なるほど、最初は地方の名物料理だったものが、風光明媚な温泉などでも名高い別府を訪れる人々の舌と胃を喜ばせ、その味と製法が全国に広がった……そんな流れの様子。
このとり天が日本各地に広まるうちに、地方それぞれの味付けと製法でバリエーションが増えてゆき――そしてそれは「鶏の唐揚げ」「チキンカツ」に並ぶ、鶏肉の揚げ物料理として確立されていった……なるほど、なるほど。

そして「とり天」が「唐揚げ」のいちジャンルにとどまらなかったのは――
とり天は、天ぷらの衣タイプの溶き粉を付けて揚げられる。これは、中華料理の鶏の揚げ物「炸鶏」や豚肉の唐揚げ料理「酥肉」がフリッター的な揚げ物とすると、とり天はやはり、唐揚げと言うよりも天ぷらのカテゴリに入る、ゆえにとり唐揚げではなく、とり天なのかもしれない。

T氏「別府のとり天発祥の店のは中華の肉揚げっぽい味だった、気がする」
不肖「そうだったのですね。……んっ? んっ、んっ、あれっ」
不肖「そういえば。近所の中華屋で出るとり天は、下味にごま油とにんにくが効いていて 中華ァアッ って感じでビールがすすむのですが」
不肖「蕎麦屋とかで出てくるとり天は、ふんわりした鶏肉の味の旨味がスーッと……下味は、出汁と塩のみですよね、あれ」
不肖「あれ、もしかして 本物の正統派とり天は、中華風味……?」

よくありますね。謎を追っていると、また別の謎に突き当たってしまう。まさにMMRの前に幾度となく立ちはだかるノストラダムス先生。

そして、味付け、製法の問題もさることながら……。
一番の謎は、名称。なぜ三河のいち地方では「とり天」が「チキンカツ」なのか。

通常、というか大抵ですと――

・とり天は、フリッター系、もしくは天ぷら系の揚げ物。
・チキンカツは、鶏肉を使ったカツ。とんかつと同じパン粉の衣付き。

ところが、これが私の地元、三河のいち地方では、

・鶏肉に天ぷら衣をつけて揚げたものを、とり天。
・鶏肉に天ぷら衣をつけて揚げたものを、チキンカツ。

……どっちも同じじゃないですか やだーーー。
という現象が発生してしまっている。これが先日の「とり天弁当」。
なぜ、この名称の入れ替え?混同?が起こってしまっているのか。
私は、とり天とチキンカツの間にある製法、そのアプローチの一つに注目してみた。

・ひと口大の、カットした鶏肉に天ぷら衣をつけて揚げると、とり天
・ムネ肉、もも肉の一枚、おおきな鶏肉を天ぷら衣で揚げると、チキンカツ

と呼ばれる傾向が見られる。何度か、そういう商品を見たことがある。
この2つのものを分けるのはサイズ、食べ方なのか?

天ぷらはたいてい、揚がったものを切ったりしない。
だがカツはトンカツしかり、揚がったものを切って供されそれを食べることが多い。
もしや……。
三河では、その食べ方、供され方が独り歩きして――

・からあげくらいの、ひとくちサイズか、がぶりといけるくらいの、鶏肉の天ぷら → とり天
・とんかつくらいに大きくて、切らなきゃ食べられない、鶏肉の天ぷら → チキンカツ

ということになるのだろうか。このあたりの謎も、つきない。
もしかしたら…… 鶏のムネ肉天ぷら・カット済み を売っているお店で「チキンカツ」という札がついていたら、お店の人にその名の由来を聞いたりすれば、何か謎のいとぐちがつかめるかもしれない。
だが、こうしてインタビューしてみても「さあ。昔からこうなので」で終わる可能性がある両刃の剣、それが三河鶏天文化のむずかしいところ。

そして、私の住まう三河。トヨタ自動車が出来る前は、挙母と呼ばれていた農村ソン である三河のいち地方、そのかつての三河の経済水準や食糧事情を鑑みれば……

・天ぷら=ごちそう 家康公も大好物
・肉=ごちそう 今でも不肖の中ではご馳走です ですったらです。
・大きい肉=すごいごちそう 縦だか横だかわからんステーキ 憧れますね
↓ そこから
・ちいさい肉の天ぷら=とり天=ごちそうisごちそう
・大きい肉の天ぷら=とり天=ごちそうisすごいExcellent ごちそう ヒャアひと口で食べきれない包丁で切って食べよう

……と。ごちそう度がオーバーフローして、名称が混同するバグが発生したのでは?
ふと昔を思い起こしてみると……。
天ぷらは、家庭料理。さつまいもとか三度豆、かぼちゃの天ぷらはおかずの定番。
カツ、トンカツはお店でしか食べられないお高い、外食。ハレのイメージ。
……な記憶が、おぼろげに。
それゆえに、でかい一枚のムネ肉をあげたやつは「チキンカツ」と呼ばれたのでは……?

さらに。他の要因はないか「とり天 チキンカツ」で検索したら。

単純に、いわゆる「チキンカツ」見たことも食ったこともなくて、なんとなく間違ったまま一枚肉のとり天が「チキンカツ」として定着しちゃった系? この節もあり得るのでは……?

ここまでをまとめると、以下のとおり。

・とり天だけど、カツみたいに切るからチキンカツ
・ごちそう感あるから、ハレっぽい名前でチキンカツ
・とり天が、なんとなく間違ってチキンカツとして定着

……どれも、文化を論じるための説としては――よわい。

思考の袋小路に陥った私は――
こういうときは、フィールドワークが突破口になる、別の、新たな謎を見つけるがそれが以前の謎を解く鍵になる……ことがある、かもしれない。と、宗像教授も稗田礼二郎教授も仰っていたきがする。
そこで私は。
新たな発見を期待し、あの「とり天弁当」を。この揚げ物を巡る謎、探求の旅の出発点となった「とり天弁当」を買ったスーパーの惣菜コーナーへと足を運んだ――

――そこには。

ん?

んっ? んっ、んんんんんん???

不肖「あのう。このお弁当なんですけど」
店員さん「はい?」
不肖「こないだは、中身がこっち(とり天)で、ラベルがチキンカツだったんですが」
店員さん「あー」
不肖「今日は、ちゃんととり天には鶏天、チキンカツにはチキンカツと……なにか、決まりとかそういうのがあるんでしょうか、これ」
店員さん「あらー。じゃあ、その日はラベル貼る子が間違えちゃったんだねえ」
不肖「エッ」
店員さん「お惣菜作る人と、詰める人と、ラベル貼る人は別なのよー」
店員さん「だいじょうぶよ。そのパックのはみんな、お値段同じだから」
不肖「エッ……いやっ、その……では、私の――」
店員さん「それ食べちゃったわよねえ? 持ってきてくれれば交換したのに~」

えっ…………???


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