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「店内でお過ごしですか?」

「店内でお過ごしですか?」

たまたま入ったカフェで見つけた珍しい飲み物を頼んだら、カウンターの向こうの女性店員にこう言われた。

聴き慣れない言葉に面食らった。

飲食物を注文し、テイクアウトかイートインかを問われるときは「店内でお召し上がりですか?」と聞かれるものだと思っていたからだ。

ただ、確かに僕はカフェに腹を満たすことや、飲み物を嗜むことを求めていなかった。
とりあえず快適に本読みながら時間を潰せる場所が欲しかっただけ。

過ごす場所が欲しかっただけだ。

だからこの女性店員の言葉(マニュアルを読み上げているだけかもしれないが)は正しいのだ。
店内で飲食をすることが目的でないくせに「店内でお召し上がりですか」と言われると思い込んでいた僕の方が間違いだ。

なんだか急に恥ずかしくなってきた。

その恥ずかしさの正体が、女性店員に自分でも言語化できていなかったカフェに入った真意を見抜かれたことなのか、
「飲食店の店員は『店内でお召し上がりですか』と言うものだ」という傲慢で間違った知識を振りかざしていた自分に気づいたからかはわからない。

でもなんだかすごく恥ずかしい。
読もうと思っていた本の内容も全然頭に入ってこないし、そもそも読まずにこの文章を書くことに時間を使っている。

ああ、もう今飲んでいるドリンクの名前も思い出せなくなってしまった。

初めて飲んだこのドリンク、リピートしたいが名前を忘れてしまっては出来ないかもしれない。

でも日曜日にも関わらずワンオペをしてる彼女にドリンクの名前を聞くことは僕には出来ない。

彼女がまた、僕に何かを気づかせそうでちょっとだけ怖いからだ。
1日に何個も気付かされては僕のような弱い人間は受け入れきれない。

もう空になったグラス1杯と「店内でお過ごしですか?」と言う言葉。
それが僕が飲み干すにはちょうどいい量なのだろう。

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