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段ボール処理に5500円払った日の話

引っ越しをして3ヶ月。

溜まりに溜まった段ボールの処理に困ってしまい、自分で処理するのが面倒になった僕は金を払って清掃回収業者を呼んだ。

5500円という貧乏サラリーマンには安くない金を払って50枚近い段ボールを引き取ってもらうことにした。1枚につき110円だ。

僕の家に段ボールを回収しにきた、50歳は超えてるであろう業者のおじさんは僕の顔と押し入れにたまった段ボールを見るなりこう言った。

「本当にいいの?こんなんぼったくりだよ?」

びっくりだ。
ぼったくりであることにもびっくりだが、それを金を支払う相手に言われたことになによりびっくりだ。
これで僕が「じゃあやめます」と言ったらおじさんは来るだけ来て1円も貰わずに帰ることになるじゃないか。
僕がそんなことを考えている間に作業を始めたおじさんは続けて言った。

「俺はね、若い子から金取りたく無いのよ。」
「でもテレビで見るようなゴミ屋敷に住んでるやついるでしょ?あんなやつからは俺は遠慮無く大金取るからね。」

"テレビで見るようなゴミ屋敷に住んでる人"

という僕の人生では多分会うことが無いだろう人間のエピソードが気になったのでそのまま話を聞いているとおじさんは更に続けた。

「ああいうやつはね、自分の家がゴミ屋敷だって気付いてないんだから。他人に言われても『え?これ普通じゃ無いんですか?』とかほざきやがるのよ。雪山みたいにゴミ袋が積み上がってるのにだよ?」
「だから友達とかが勝手に俺みたいな業者呼ぶの。それで金払うのは本人だからね。1月の給料くらいそれで取られる。そんなロクでなしには俺だって遠慮せず大金取るよ。」

とのことだ。

なんと"テレビで見るようなゴミ屋敷に住んでる人"は自分の家が清掃されるべき家だということに納得していないらしい。
しかもそれに月給くらいの金を支払わされている。

「なんでだよ」とか「そんなに汚い家か?」とか思いながら友達に勝手に呼ばれた業者に大金を支払う。
そんなの「段ボールが溜まっているのが嫌だなあ。高いけど5500円払って処理してもらおう。」とまあまあ納得している僕から金を取るよりも、よっぽどボッタクリじゃないか。
とか思った僕をよそにおじさんは続ける。

「しかもそういうロクでなしは2〜3年後にまたおんなじ様にゴミ屋敷にするんだから。で、またおんなじ様に大金払うの。下らないでしょ?兄ちゃんはこれっきりにしなよ。」

ゴミ屋敷にするのを繰り返してしまうのも、部屋を清掃されることに納得していないからだろう。

すっかりおじさんの話に聞き入っている僕は思った。

本人の中でどこからどこまでが清潔な部屋で、どこからがちょっと汚い部屋で、どこからがゴミ屋敷なのかわかってなければゴミ屋敷化してもおかしくない。
そしてまた自分では納得いかない大金を払うことになる。

納得してないということは、何も得てないのと同じだ。
不味かった飯に金を払ったり、買った家電がすぐ壊れたりして、「うわ、金をドブに捨てちまった」と思ったことが僕にもある。その時僕は支払った金に対し、何も得ていない。
ただ、これらは自分で選んだものだからたとえ1回ドブに捨てようが次からは避けることができる。勉強料というやつだ。
段ボールを溜めまくって清掃業者を呼ぶことも、2度目は無いだろう。

でもゴミ屋敷の住民はこれからも金をドブに捨て続けるのだろう。
善意で彼の金をドブに捨てる優しい友人が居るのだから。

そんなこんなで清掃が終了した。
興味深い話を聞けたので何もしていないが多少の充足感があった。
まあまあの納得も80%の納得くらいにはなっていたと思う。

おじさんに感謝を述べると、彼からは請求書が返ってきた。
5500円をぼったくられ、「言われた通りこれからは自分で片付けますよ。だからおじさんとはこれっきりです。」と言った。

「そんな寂しいこと言うなよ!また呼んだらそんときゃ引っ叩いて説教してやっから!」

30も歳の離れた2度と合わないだろうおじさんとの間に奇妙な友情を感じ、入居以来の空っぽの押入れの姿を見ていた僕は、100%の納得感に包まれた。

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