【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 1 (忍殺TRPGソロアドベンチャーシナリオ3より)

【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 1

「アッコラー!イヤーッ!」 「グワーッ!?テメッコラー!イヤーッ!」 「グワーッ!?」

 ジャンクUNIXや破損コケシが散乱する薄汚い路地裏で殴りあうのはヤンクとパンクス。このヨタモノ二人は肩がぶつかったぶつかっていないというごくつまらぬ諍いから当然のように殴り合いへ移行し、それはすでにアザや流血が目立つほどにエスカレートしていた。

「ザッケンナコラー・・・!」 血唾を吐き捨てたヤンクは、目を血走らせて懐からナイフを取り出す!完全に逆上しているのだ! 「スッゾコラー!」 それを見たパンクスは地面に落ちていたビール瓶を拾い、叩き割って即席の凶悪武器にする!ギザギザが多く致命的だ!

「シャッコラー!」 「アッコラー!」 互いに手にした得物を突き出しながら牽制し合う!一触即発のアトモスフィアが高まる!ナムサン!このままでは互いに重傷、いや死すらあり得る。だが愚かな若者が下らぬ理由で命を落とすことなど、ここマッポー都市ネオサイタマではチャメシ・インシデントなのだ・・・!

「グフフーッ!!」 「「アイエッ!?」」 だがその時、二人の間に割って入った影あり!突如として上空から飛び降りてきた男は、あっけに取られるヨタモノの手から素早く得物を奪い取り、それを自らの脇の下に挟み込む!男の上半身は裸だ!アブナイ!そんな鋭利なものを素肌に挟み込んでは!

「グフフーッ!若人よ、喧嘩はよくない!争いなどやめて我が筋肉を見よーッ!」 だが男は白く健康的な歯を見せながらにこやかに笑い、そのまま何らかのポーズを決める!これはボディビルの規定ポーズ、サイド・チェストだ!

「プロポーション!」 「「アイエエエエエ!!??」」 ボディビルじみたシャウトと同時に、男の肉体はまるでワセリンを塗りたくったかのような輝きを放つ!そして脇の下に挟み込まれたビール瓶が砕け、ナイフはぐにゃりと捻じ曲がる! 「グフフーッ!」 男の肉体には傷一つ付いていない!まるで肉体が鋼鉄と化したかのようだ!これはもしや、平安時代より伝わるジュー・ジツのひとつ、ムテキ・アティチュードでは!?

「「アイエエエエ!!?」」 ヨタモノ二人はへたりこみ、地面には失禁の染みが広がる。そして二人は気づいてしまう・・・目の前の男の、全身を包む鋼鉄の鎧めいた筋肉を。腰のビキニパンツの上に巻かれたブラックベルトを。そして鼻から上を覆う黒いメンポを!ブラックベルトにメンポ!つまり!?

「「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」」 そう、男はニンジャであったのだ!そしてメンポのクロスカタナ・エンブレム!これはネオサイタマを支配するニンジャ組織、ソウカイヤの紋章! 「グフフ、ドーモ!プレートメイルです!」 ソウカイニンジャ、プレートメイルはサイド・チェストの構えのままポージング・アイサツを決め、そのまま流れるようにサイド・トライセップスを繰り出す!

「争いなどで筋肉を傷つけてはいかぬぞ!筋肉は他人を傷つけるためのものにあらず!」 己の筋肉を誇示しながら、プレートメイルはヨタモノ二人を諭す!彼は暴力が大嫌いなのだ! 「「アイエエエエエ・・・」」 突如として現われたニンジャに思いもかけず道徳的な説教をされたヨタモノ二人は、重篤なNRSを起こして失神した。

「グフフ・・・良かった。未来ある筋肉を守ることができたワイ」 白目を剥いて痙攣するヨタモノ二人を見て、プレートメイルは安堵の息を漏らす。こんなつまらぬ諍いで地球上の筋肉含有率を下げてはいかぬ。ミッションの合間、余暇に行うポージング・パトロールは彼にとって重要な仕事であった。

モータル時代のプレートメイルは筋肉承認欲求に餓えるあまり、数々の反社会的ポージング行為を繰り返すマッスル・テロリストであった。だが今の彼はソウカイニンジャであり、ネオサイタマの(ソウカイヤにとって都合のいい)社会秩序を守る立場にある。ゆえに反社会的ポージング行為は厳に慎み、こうしてポージング・パトロールを行い、無為に失われそうになっている筋肉を己の筋肉によって保護しているのだ。

プレートメイルの筋肉承認欲求を満たし、且つモータルの筋肉(ソウカイヤにとって搾取すべき労働力)を無為に減らさぬこの行為はまさにアブハチトラズと言えるものであり、ソウカイヤ内部でも黙認されていた。時には恐れ入ったモータルが万札を差し出してくることもあり、いわゆるモータル・ハントの一種と解釈されたのである。

「グフ・・・?」 パトロールを再開しようとしたプレートメイルは、腰に下げた携帯IRC端末が赤く点滅していることに気づく。 (赤?) ソウカイネットからの通常ノーティスは緑。赤は緊急事態に限られるはずだ。彼は画面を覗き込む。「グフッ!?」 そこに表示された文字列を見たプレートメイルの筋肉がモリモリと震えた。

「グフ・・・シックスゲイツが!?」 ソウカイヤのニンジャ威力部門、シックスゲイツ。通常ヤクザ業務の延長ミッションしか受けぬサンシタのプレートメイルなどとは比べ物にならぬ、対ニンジャ戦闘にも長けるカラテ強者の集まり。そしてヘルカイトといえばそのシックスゲイツでも最強の「六人」の一人である。それほどの手練れが消息を絶ったというのだ。確かに緊急事態である。

IRCに示された目的地は一つの廃工場。偶然にも、プレートメイルが今いる場所からはさほど遠くない。ニンジャ脚力をもってすれば数分で到着できる。それゆえに先行調査を命じられたワケだが、しかし・・・

(シックスゲイツほどのカラテ猛者が消息を絶つとなれば、敵対ニンジャによる攻撃を考えぬわけにはいかぬ。しかもそれはシックスゲイツを倒すほどのカラテを持っている可能性が高い・・・)

プレートメイルはしばしポージング黙考。彼のカラテは決して低くない。だがそれは所詮サンシタという枠組の中でのことだ。彼は己のカラテの、筋肉の未熟を知っている。ブッダ像の片眉すら動かせぬ未熟を。自分のようなサンシタに務まる任務なのか?ここは応援を待ち、数人体制のチームを複数組み・・・いや、これはもはや他のシックスゲイツが派遣されるべき事態では・・・?

「グフフ・・・否!ニンジャのイクサはコンマ数秒の奪い合い!ニンジャ・インシデントも一秒の遅れが致命となろうワイ!」 プレートメイルはモスト・マスキュラーを決め、弱気になった己にキアイを入れる! 「バルク!」 地面を蹴り、筋肉色付きの風と化した彼は、目的地の廃工場まで一直線に駆け出した!

致死的危険性さえ感じさせるミッションにプレートメイルを向かわせるのは社会秩序を守るべきソウカイニンジャとしての責任感であろうか?否、プレートメイルを突き動かすのは、純粋な筋肉への愛であった。

ソウカイヤは巨大組織であり、通常のカイシャのように所属ニンジャが全員揃って毎朝出勤するわけでもない。ソウカイニンジャ同士といえど管轄や部署が違えば面識が無いのは当然のことである。サンシタのプレートメイルが組織内エリートであるヘルカイトを実際に目にしたことはなく、話に聞いて知っているだけだ。

確かなカラテと優れた偵察能力を持ち、カイトを自在に操り空を飛ぶ貴重な航空戦力ニンジャ。首魁ラオモト・カンを崇拝し、組織貢献度の高いミッションを率先して受諾、成功させ続けている。ラオモトはもちろん、シックスゲイツ創始者ゲイトキーパーからの評価も高い。

だが一方で仲間や部下からは付き合いの悪さや露骨な点数稼ぎと見られる態度などが疎んじられ、やや孤立気味。以前に「六人」だったガーゴイルを殺して新たな「六人」の座を奪ったのだというウワサが立つほどで、それはプレートメイルの耳にも届いていたが・・・

(シックスゲイツ・・・凄まじいカラテ・・・即ち、グフフーッ!優れた筋肉!) プレートメイルにとってはヘルカイトの評判も、実際にガーゴイルを殺したのかも、どうでもよかった。彼はただ、シックスゲイツの六人にすら上り詰めた優秀な筋肉が失われる可能性を恐れていたのだ。

モータルを遥かに超える筋肉を持つニンジャ、そのニンジャの中でも精鋭と言えるシックスゲイツ。その筋肉が失われることなど、ソウカイヤの・・・いや、地球にとっての大損失である。プレートメイルは筋肉を愛する。自分のものも、他人のものも。彼はそれ以外に価値を見出さぬのだ。

(グフフーッ!どうか無事でいてくれ、ヘルカイト=サン!未熟なれど、全筋全肉をもって先行調査を決行よーッ!)

プレートメイルは全身の筋肉から熱を発しながらネオサイタマの夜を駆ける。降りしきる重金属酸性雨が彼の体に触れ、シュウと音を立てて白い霧と化した。プレートメイルの駆け抜けた後を見た人々は、その場に残る不可思議な霧を見て首を傾げた。

【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 1 終わり。2へ続く

ニンジャ名:プレートメイル
【カラテ】:6
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:2
【ジツ】:2(ムテキ・アティチュード)
【体力】:6
【精神力】:6
【脚力】:3
装備など:無し 万札:10 DKK:1

プレートメイルの前回の冒険はこちらを、
元となったソロアドベンチャーシナリオはこちらをどうぞ。

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