📕銃・病原菌・鉄 上

概要

人類の中で発展した文明の要因を突き詰めると銃・病原菌・鉄の影響の強さがわかる本。

人類がどのように進化の経路を辿ったのかや繁栄する文化と滅びる文化の違いを知ることは物語の創作から雑談、歴史的教養からビジネスの成功訓まで普遍的に共通するかもしれない。

文庫　銃・病原菌・鉄　（上）　1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

読書メモ

・この世界は不均等に発展しており発展した白人社会が航路を開拓した事でニューギニアのような未開の地域は支配される側に回った

・現代文明とニューギニアの人を比べた際にニューギニア人の方が賢いと思える理由として、頭が良くないと生き残れない点と幼少から娯楽を手に入れるには受動的ではダメだから。現代人の方が誰でも生き残れテレビなど受動的でも娯楽がある。

・チンパンジーは言語能力を発達させた咽頭により人として進化した説

・同じ祖を持つマオリ族とモリオリ族だがマオリは農耕と統率の習慣で1835年に武器を揃え狩猟で暮らすモリオリ族を大量に虐殺したがそれは慣習に則っただけだという

・ポリネシアにある島々を見てみると環境によってそれぞれ発展や統治が違っていた。つまり人類の文明の発展は環境による影響が大きい。

・何百万の臣民を抱えるインカ皇帝アタワルパに対し168人の兵士を持つピサロは数分でアタワルパを捕らえ、最高額の身代金や財宝を奪いゆっくり現地調査した後に約束を破りアタワルパを処刑

・数万人いたインディオだが誰一人としてピサロ軍に立ち向かう者はおらず騎馬や銃に恐れ逃げ惑うばかりだった。

・インカ帝国は移住したスペイン人により天然痘を広げられたことで内部分裂しまとまりがなくなっていた。アステカ帝国時代も天然痘に苦しんだが、同時にヨーロッパも黄熱病やマラリアで苦しんだりもした。

・銃や騎馬を持たない武力、文字を使わない情報力、集権政治で統率と航海を可能にした経済力、病原菌に対する免疫力などが少人数のピサロに勝利をもたらした

・増やせる人口は採取できるカロリーに比例し、狩猟よりも農耕の方が１エーカーあたりのカロリー量は大きくなる。動物は屠殺よりも乳や糞による肥料などでカロリー量が増え、牛や馬は農業や戦争など労獣としても使える。

・農耕で食料を安定して分配できることで食料従事者以外にも戦争を正当化する宗教家や政治家、軍人、技術者などを養成でき国を強くできる。

・狩猟から食糧生産に移行した要因として、1動物資源の減少、2栽培可能な作物の増加、3刈入れなどの技術発展、4人口密度の増加、5狩猟民より農耕民が強くなった　など

・近代になってから新たに栽培された植物がほぼ無いことを考えると古代の人間が一通り植物の栽培の研鑽を行なってきたと言うことだろう。ドングリなどもブナに育つまでに10年以上かかるため効率が悪い。

・穀粒の大きいトップ56のうち西ユーラシアは32種も生育していたのに対し、チリ近辺ではたったの2種だけだった。

・ニューギニア高地には食糧となる動物がいないためタンパク質不足特有の腹部が膨らんだり、昆虫を食べたりカニバリズムに向かうこともあった

・家畜化とは人間の都合の良い個体を選別、繁殖させることで代表的な14種の中でも羊、山羊、牛、豚、馬の5種が繁栄にかなり重要でありユーラシアには13種生息していた

・家畜化できる動物として、餌が手に入りやすい、成長速度が速い、繁殖しやすい、気性が穏やかなどがある

・第二次世界大戦までは戦死者よりも戦場で病気になって死ぬ人が多かったし、コロンブスの1492年の航海でも虐殺された数よりももたらされた病原菌で死ぬ人の方が遥かに多い。（イスパニョーラ島は800万人だった人口が1535年には０になっている。）

・病原菌は宿主を殺してでも伝播することで一人以上に感染を広げるため繁殖の目的を達成でき、免疫を持たない遺伝子の人間は淘汰されていく

・農耕民族は集団で密接しているため家畜や人の交流が多く感染の広がるスピードと共に集団免疫の獲得のスピードも高く、その間にまた病原菌も進化をし続けている

・1519年にアステカ帝国を攻めたスペインは軍の3分の2を失ったが、1520年に一人の奴隷がメキシコにもたらした天然痘により帝国の人口の半分が死亡し後々の戦いが厳しいものになった

所感

Dr.Stone好きなら絶対に読んだら唆る内容がたくさんだ。
千空が銃を作ろうとしたのも司帝国が勝っていたら先住民化していたこともこの本で想像できるようになった。

ネズミなら環境実験で殺しても問題ないが、人間で環境変化の実験を行うことは無理なのでこうした人類史を知っておくのは性質を知る上で面白い。

ピサロがインディオを大量に殺した事件は現代に例えると銃乱射事件のようなものかもしれないが、幸い我々の社会では警察などの犯罪者と戦うという人間がおり銃の情報もあるため銃乱射がおきても街が支配される可能性は少ない。

これを読むうちに日本の立ち位置を考えていて、例えば紀元前３世紀に北九州に稲作や金属が伝わった事は征服されない上で重要な時期だったことがわかった。

食糧生産が文明発展に重要とわかっていても、環境によって生産が厳しい地域とかは最初から文明が混じりあった際に淘汰される運命だったと考えると手厳しいなと思ってしまう。

ちなみにニューギニア高地の男性は年上の男性から通過儀礼として精液を飲まされるというのを聞いたことがあるが、これもまたタンパク質が不足している地域だから起きることだという理解ができた。

現代では病原菌に対抗する手段として免疫力以外にもワクチンを打つことができる経済力もまた淘汰されないために重要な指標なのではないか。

人間がいくらもがこうとも病原菌というものが殺す人間の数はとてつもない。