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命の気配|自然の愛撫

  標高4000メートルのヒマラヤ山麓。
  岩と山と川と空しかない青と灰色の聖地で
  水も電気も無いテント生活で過ごした日々のこと。

  かすかな蝋燭の光のもとで瞑想していた。
  静寂のなか
  氷河から初めて地表に現れた
  ガンジス川の濁流音だけが響き渡る。

  突然の濃い気配が闇夜を動かした。
  無形のものではない
  はっきりとした生命の躍動。
  生々しい何か。

  それは私たちと同等の大きさで存在し
  獣が来たのかと警戒した。
  感覚を研ぎ澄ましてあたりを見回しても
  動物の影はない。
 
  再び静かに瞑想しながら、
  それでも動き回る命の感触は
  不思議なほど暖かく。

  そして厨房の陰にみつけた。
  小さな薄茶色のヒマラヤねずみ。

  やせたネズミがクッキーの袋をあさろうとしていた。
  ネズミは安いクッキーには触れようともせず
  贅沢なクリームサンドの高級クッキーを
  どんなに隠しても的確に探して食べつくす。
 
  瞑想中に感じたそのネズミは
  巨大な命の存在だった。
  身体の大小は関係なく、
  生き物として平等。
 
  私は本気で対峙し、
  真剣に追い払った。
  それでもネズミは野生の知恵で、
  見事に人間を出し抜いていく。
 
  そんな生々しいやりとりが
  ヒマラヤという聖地を支える
  生の命の輝き。


命の気配2

(Photo: Gomukh, Himalaya ©MikaRin)


深い睡眠:寝落ちのためのサウンド

アンビエント:パソコン作業中に。


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