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2024年4月の記事一覧
齢八十八、指揮者にないもの
身を包む空気には、風もなく、濁りもなく、熱もなく、湿気もなく。
無駄なもののない空間だ。
壁越しに耳に入ってくるのは一定の振動数を保つ長い弦の音、遊び吹かれる木管の音階、弾むような金管の鼓笛。それらが雑多に入り混じる、「まだ」混沌状態のものたち。
「マエストロ、そろそろです」
瞼を開ける。
私の前の鏡には、顔に深い皺が刻まれた老人が一人座って映っている。同じく皺だらけの手が、台の上に
身を包む空気には、風もなく、濁りもなく、熱もなく、湿気もなく。
無駄なもののない空間だ。
壁越しに耳に入ってくるのは一定の振動数を保つ長い弦の音、遊び吹かれる木管の音階、弾むような金管の鼓笛。それらが雑多に入り混じる、「まだ」混沌状態のものたち。
「マエストロ、そろそろです」
瞼を開ける。
私の前の鏡には、顔に深い皺が刻まれた老人が一人座って映っている。同じく皺だらけの手が、台の上に