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シレア国 兄王子中編

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硬派ファンタジー、イケメン主従、アクションありのバディもの。 正統派イケメン王子と苦労人系イケメン従者です。 30000字なので、サクッと読んでください! よろしくお願いいたしま…
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双璧の誓盟 第二話 微震(一)

 関所を抜けてしばらく走り、市門が先に見えてきたあたりで二頭は速度を緩めた。ややもすると栃栗毛の方が前に進み出て、門の前で足を止める。明るさを抑えた臙脂色の羽織を空に遊ばせて馬上の男性が軽々と降り、手綱を引いて門の方へ踏み出した。 「ちょっと殿下」  男性は足を止めて振り返った。平均よりやや高い身長か。細身ながら適度に鍛えられた身体つきは服の上からでもわかり、すらりと伸びた四肢と均整を取っている。腰に佩いた剣が飾り物でないことは、注意力のある者ならわかるはずだ。  だが彼が纏

双璧の誓盟 第九話 密話(二)

 市が開かれる広場に面して、件の茶屋があった。扉には薬草を模した飾りが紐で垂れ下がり、それを引くと頭上で鈴が鳴る。「開いてますよ」という返答を受け、カエルムは古びた銅の取手を回した。  店内は薄暗く、明るい戸外から入ると明暗の差で瞬間的に視力が奪われる。段々と慣れてきた目で奥を見れば、壁がびっしりと棚で埋まっていた。 「旅の方ですか。何をお求めですか」  棚の前には中肉中背の男性が立っていた。髪には白いものが混じっている。 「ここは薬茶も扱うのでしょうか」  カエルムは天井ま

双璧の誓盟 第十一話 浄化(一)

 部屋に入ったのは三人、それぞれ剣や棍棒などが手にある。そして間口から見える限り廊下に数人。獰猛な目つきをした者たちは、警戒と怒りを露わに、二人を囲むように陣取った。  双方相手の出方を窺ったまま固まり、呼吸すら聞こえない。  そのまま数十秒はあったか。不意に衣擦れの音が空気を揺らし、カエルムの前にいた男が踏み込んだ。 「遅い」  襲い掛かった男の視界からカエルムが消え、予想外の影が目の前に現れる。男がそれに気を取られた一瞬の隙に、手にしていた棍棒が打たれて持ち主の顔面を叩い

双璧の誓盟 第十二話 浄化(二)

 喧騒を背にしてしばらく駆けると、次第に板張りを打つ自分の足音が大きくなってくる。火を灯した照明が点々と並ぶ廊下の左右には、客間や書斎があるばかりで、よくある富裕層の邸宅と変わらない。  ——どこに消えた。  広いとはいえ平屋だ。あの場から立ち去った女が逃げられる範囲は限られている。だがどの部屋にも人影はなく、気配すらしない。  廊下が延びるまま右に折れ、左に折れたところで前方が行き止まりになった。外に出たか。  引き返そうと足を緩める。すると突如として足裏の反発が軽くなり、

双璧の誓盟 第十三話 浄化(三)

 ——来たか……  目の眩みを殺そうと唇を噛む。薬を飲んだからと言って、自分も無害ではいられない。連戦で消耗していては尚更だ。  振り下ろされた一撃を反射的に受け返すと、その反動で体が否応なく後ろへ跳ね返された。大剣の重さは尋常ではない。  ——こちらから仕掛けないで終わらせたかったが。  改めて覚悟を決め、散じた気を集めて柄を握り直す。四肢が気怠い。機を逃せばこの身が裂かれるだろう。  蝋燭の光に痛みを覚え、目を細める。そのとき、視界の端で男の足が不自然に床を踏んだ。  だ

双璧の誓盟 終章 帰郷

「ったくあんたは。人のことだけ無事に逃そうなんてそうは行きませんよ」  閉じかけた瞼の裏に光を感じたと同時に、聞き慣れた声が降ってくる。握りしめた剣を支えに顔を上げようとすると、目前に人影が現れた。 「ロス……? まだ、鐘楼は」  鳴っていない——そう言いかけたカエルムの耳に、清らかな鐘の音が届いた。  鈴のように軽く、清水を思わせるほど澄んだシューザリーンの時計台の調べ。古来よりずれも止まりもせず、唯一この一瞬にしかない時を民へ伝えるシレアの宝。シレア国内ならば場所を問わず