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秋の花火は冷たかった

過ぎ去りし時すぎて、書き損ねていたイベントがあった。
下書きのなかに放ったままもう半年以上が経っている。
タイトルしか残していなかったが、
なんとなく気に入ったので続きを書いてみることにする。


夏の大きめな仕事が一息ついた。
今年の夏はたいへん楽しかった。
仕事相手の人たちに年齢を超えてかまってもらい、
出張先での休みの日にはレンタカーをして一人でも車で出かけてみたり、
お酒やカラオケ、屋外テニス等、しっかりとそれはそれで夏だった。

フェスや夏祭りといった季節の行事には行けなかったけど、
半径5メートルで完結する楽しみの見つけ方はお手のものだった。
そんな長期出張から帰ってきた頃には、
もう夏は終わり残暑残る秋の風が吹いていた。

夏の風物詩といえば、私は花火大会が好きだった。
実家に暮らしていた頃は、
毎年近所の親戚の家に行って、柵のない平べったい屋上で
大人たちのつまみの枝豆やらなんかをつまみながらよく見ていた。
「今年は風に流されちゃうね」「この色みたことないかも」
そんなことを、祖父母と見ながら話す時間が好きだった。

よきビュースポットがあるものだから、
花火大会を見始めのデビューは物心ついてすぐだった気がするが、
初めて河川敷での打ち上げを見に行ったのは20歳をすぎてからだった。
家族とではなく、友人たちと見る花火は初めてだった。
人出の多さと心細さと、はじめて真下から見上げる花火の大きさに、
大人ながらにワクワクしていた。

ある年の隅田川の花火大会では、当時のバイト先の人たちと
ずいぶんとまだ空が明るいうちから路上で場所取りをしていたが
結果は大雨。雨天中止。安居酒屋で飲み明かした夜も懐かしい。


近年コロナで大規模な花火大会は延期や縮小が多いし、
なにより年々夏が熱くなりすぎている。
実家を離れてからも、
タイミングがあえば花火大会にあわせて帰省していたが
もう今年の夏は終わっていた。

そんななかで秋の花火大会があるとネットでみた。
20歳のときの時間と体力に余裕のある若者ではない。
ただ、失うばかりではないのだ。
10年の時を経てほんの少しの財力とクレジットカードは手に入れた。

【有料観覧席 ※在住者先行販売】
なんと甘美な響きか。
暑い中で果たしてここから見えるのだろかなんて
不安な気持ちで待つこともなく、
一度しか使わないレジャーシートを用意することなく
おしりが痛くなることもなく、
そして、割と近隣の住民の皆様にお先にお譲りしますよシステム。
それが花火大会の有料観覧席だ!!!


るんるんとチケット購入ページで入力を進めていくわたくし。
ふと立ち止まる。
「はて……花火はみたいが、誰と行くんだ私は………」

………やはり失ったものは大きいようだ。
一緒に行く相手がいない。事実は冷酷である。


でもせっかくだから花火大会行きたいなぁー。
今年の夏は終わったけど、今年の秋は今だけだもの。
行けるのに行けないなんて、一番後悔しちゃう。

そこで私は、いにしえから存在している
使い古されたあの手法を試すことにした。

「チケット譲ってもらったんだけど、よかったら一緒にいきませんか?」と。
いいのだ。私が2枚分買えばいい。
だって大人だからね。そんな秋があったっていいじゃないか。

見事に、引っかかってくれた好きな人(焼き肉の君サルサの君)と
いざ!人生初の秋の花火大会へ!


会場最寄り駅には、毎年こうなのか?と思うほど
たくさんの人で溢れかえっていて、
電車に乗る前からつけていたAirPods の高性能ノイズキャンセリングを
少し外してみたら、もうちょっと来たことを後悔しはじめた。

人混みは苦手じゃなかったはずなのに(ライブハウスとか行ってたし)
だんだんと苦手なものが増えていくお年頃なのかもしれない。
不安な気持ちの私の前に現れたのは、同じく人混みが苦手なアラフォーの君。

じんわりとお互いのテンションが落ち始めたので、
道すがらにとりあえずビールを買う我々。
たくさんの人の流れにとりあえずついていくと、
河川敷には眼の前の人の数10倍の人、人、人。
出店に並ぶときっともう花火の打ち上げには間に合わないしと
とりあえず席につく。

河川敷に並べられたパイプ椅子には、
同じように男女の組み合わせが多かった。
そこでぽつぽつと不穏な水滴が…………
うっすらと降ったりやんだりを繰り返し、なんとか花火大会は続いたが
地味に体力を奪われた。

花火大会では音楽✕花火というテーマなのか
AdoとかYOASOBIとかが爆音で流れる中花火がトントン上がっていく。
そうだったけな、河川敷で見ると音楽とか流れてたか……
と情緒とは違う趣のなかで空を見上げる。


アナウンス「強風のため~、○尺玉の打ち上げは見合わせていただきます
となんとも残念すぎるお知らせが。
なんだかしょっぱい打ち上げだった。
川下のほうでやっている別の花火大会では
どうやら大きなものもバンバンと打ち上げている様子。
「あっちは景気がいいなぁ~」みんなそっちを見てた。


アナウンス「最後に花火師の皆さんに、感謝を送りましょう~
皆様スマートフォンの電気をみせてください~」
河川敷の観客たちのスマホが一斉に光った。
花火よりも広くつづく光の様子が、
私の数少ないジャニーズのコンサートの記憶を呼び起こした。


【ビール・小雨・強風】
体力を奪い続けた1時間あまりに、
私の体は完全に冷え切った。
会場を出るのにさらに1時間近くかかり、
駅もごった返し。30分歩いて人の少ない駅を目指す。

住宅街にコンビニは少なく、地域の公民館でのトイレの貸出は断られ、
限界が近づいていた。
結局スーパーでお借りすることができて、なんとか難をしのいだ。
タンクが大きめだね!と医者に言われて気恥ずかしい思いをしたことはあるが、こんなに感謝した日はない。


せっかく、嘘とお金を使ってまで行った花火大会。
でも半年経っても覚えているのは、
トイレを求めて彷徨った1時間半のこと。
人混みの中で、手をつなぐイベントなんて発生しないし(肩掛けカバンの日紐握られてた)
火を見た男女は興奮する……的なこともなく、
彼とは駅前でしっぽりと飲んで解散した。

失敗例すぎる花火大会だった。
いつか実家の屋上で静かに花火をみてくれる人と一緒になりたいなんて
ちらりと思った。


花火大会に誘う時は、あんなに好きだったのに。
なんだか、花火といっしょに気持ちがしぼんでいった。
どんどん心の中が冷えていくような。
そんな、冷たい風が頬を通り抜けた気がした。

aikoの『KissHug』は永遠だな。



暑い日の夜だから、花火はいいんだろうな。
今年も夏がやってくる。
日々もう半袖である。
今年の夏は少し、夏らしいことしたいな。



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