安直な生と性 『生きててよかった』
私は「男の映画」が好きだ。過去の栄光にしがみつき、過去に向かってしか生きられない男とか、夢を追って落ちぶれていく男とか、男らしい振る舞いやくだらないメンツにこだわって破滅する男とか、そういうものをバカみたいにカッコよく描いたような映画が好きだ。
その意味での最高傑作はやはり私の中では2009年の『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督)。かつて人気レスラーだった主人公ランディを実際に落ち目だったミッキー・ロークが演じたのも最高だし、ランディと恋人パムが80年代LAメタル好きだったのも最高で、最後にある種のエクスタシーの中、次はないかもしれないリングに向かう時の入場曲がGUNS N' ROSESの「Sweet Child O' Mine」だったところは、高揚感が押し寄せてきて涙なくしては観られない。あまたある80年代の名曲の中から最後にこれを選ぶとは・・・本当、わかってらっしゃる!!!涙
「レスラー」は生涯ベストに入る、ほんとに大好きな映画なのでまた別途語りたいのだけど、「リングでしか生きられない元ボクサーの格闘アクション」ということで、似た雰囲気を感じて観に行ったのが最近公開された『生きててよかった』(鈴木太一監督)。
これがねえ・・・。やりたいことはわかるけど、好きなテーマなだけに本当にキツかった・・・。以下私の個人的感想による批判になってしまうので、好きな方にはごめんなさい。
主人公・楠木創太(木幡竜)は中年ボクサー。芽が出ないままドクターストップがかかり、「まだ戦える」と主張するのだけど、長く付き合ってきた彼女・幸子(鎌滝恵利)に「十分頑張ったよ。結婚しよう」と諭され、ついに引退することに。
まずこの開始5分で「え?」と思ったのが、相当長く付き合っている様子なのに幸子は試合を見に行ったこともなく、「最後の試合は相手の人にパンチをあまり打たないようにお願いできませんか」とか言う素人。そんな人に「ソウちゃんが十分頑張ったってこと、私知ってるよ」とか言われても引退する気になる? 私ならめっちゃイラつく。殴るかもしれないw
そして結婚して普通に働いてみるものの「ボクシングしかない」男なので何をやっても上手くいかない。こういう、結婚して「平凡だけど幸せな生活」をするはずだったのに馴染めない的な展開は『竜二』みたいで非常に好みなハズなんだけど、二人ともバイト生活なのに妙に小ぎれいなそこそこ広いアパートで暮らしていてイマイチ悲壮感がない。
まあ、そんな感じであまり生活が上手くいかなくなっていた時、半グレ的な謎の男(栁俊太郎)から闇格闘技に誘われて参加してみると、初戦で素人?にボロ負け(20年以上も何やってたの?w)。俳優になる夢を捨てかけている友人・健児(今野浩喜)と一緒に一念発起して本気でやり出すと(このロッキー的な訓練シーンと階段のシーンはちょっと良かった)、今度はめちゃくちゃ強くなって一気に闇闘技場のヒーローに。
でも「ボクシングしかない」男なのに1度も強かった時代がないって、なんでそんな男に「リングの上でだけ、あいつは生きてるんだ」なんていうカッコイイ感想を持てるのだろう(ボコボコにされてる時だけ生を感じられる、ということならまだわかるんだけど、それなら闇闘技場で強くなってしまう説明がつかないから、多分違う)。
そして何より謎なのが、創太に魅力があるとしたら「ボクシングしかない」ところ以外にないと思うのだけど、幸子は彼の試合を見たことがなく、応援する気もない。それなら彼の一体どこに惚れたんだろう?
創太もそうで、幸子といても全然楽しそうじゃないし(不器用な男設定はわかるけど、にしても…)、幸子は自分の1番大事なものを理解しようともしないのに、どこが好きなの?
途中で幸子は、創太の試合の間は心配しすぎて過呼吸になるほどだから他の男とセックスして紛らわせていた、という告白をするのだけど、その相手がかなり気持ち悪い男で、なんでこんなのと…と、そっちが気になってしまったw
そしてその告白の後、格闘技のように激しく生を燃やすセックスをして、2人は別れる。
離婚後、健児のお節介で吐きながら幸子は試合を観に行き、なぜか突然めっちゃ応援し出す。それが、離婚前の二人の格闘セックスの息づかいと相まって高まり、「生きててよかった」とテロップ(この画は良くてちょっと感動する)。
このセックスと暴力を重ねて「生きる」ことを表現する、というのは好きなテーマなんだけど、ちょっとあからさますぎるんだよなー。むしろ、幸子は他の男とヤってて、その息づかいと創太の戦いでの息づかいが重なったほうが、どうしようもない2人の関係性を暗示してて感動したんじゃないかなあ。だってあんなに嫌がってたのに見に行ったら応援するって…だったら最初から見に行って応援してあげてればよかったじゃん、というだけの話になってしまう。
で、もともとドクターストップがかかっていた体なので、創太は死んだのだな、とわかる形でエンドなのだけど、、、
そもそもドクターストップかかってる設定だったのに、あんなに俊敏に動いて戦って、倒れるとか頭が痛むとかそういう描写も一切なくて、その辺も感動を薄れさせる原因だった気がする。元気じゃん!!っていうw
また2人の共通の友達、健児もツッコミどころ満載。
創太・幸子・健児の3人は幼馴染で、もともといじめられっ子だったのだけど、『ロッキー』のビデオを観たことがきっかけで、創太はボクサーを、健児は俳優を目指すことになる。
チョイ役ばかりだった健児にある日大きな役が決まり、喜んで頑張っていたら製作中止になってしまったことで腐って、子供に「夢なんか見るな」と最悪な説教をして、「俺はアイツみたいに生きたかったんだ」と言い出して闇格闘技マネージャーになるのだけど、「さっちゃんを幸せにしろ!!」とキレたり、突然「(幸子が)ずっと好きだった」と言い出したり「さっちゃんは創太のこと全然わかってないよ」と言い出したり、なんなんだよと、、、
そもそも大きな役をもらえたのは事実で、中止になったのは自分のせいじゃないんだから引き続き頑張ればいいだけじゃん、役者の仕事が死ぬほど好きだから続けてるんじゃないの??
創太もそうなんだけど、「好き」「これしかない」ってところがあんまり伝わらなかったんだよね…。
こういう映画で女がお飾りになるのは別に良いんだけど、変に出張ってくるとキツイというのもある。
あと地下闘技場を運営してる謎の男、ナチュラルに街中で拳銃出しすぎだし(ここは日本ですよ!)、違法な営業なんだからもうちょっと慎重にならないと、あんな風に簡単に格闘嫌いの女が入れるとかおかしいでしょ。しかも「あんたは勝ちすぎた」と八百長試合を要求した癖に、創太の試合を見てなんか感動しちゃってるし…あんな甘い奴に運営なんかできないよ。
最近は女性映画の方が面白いのが多くて、今風にバカな男のかっこよさを表現するのがなかなか難しいのかもなあ・・・などと思いました。
普通に『ロッキー』が見たくなる。
とはいえ、火野正平と、格闘シーンは結構迫力あって良かったです。
★NANASE★
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