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突然死んだ家族のpixivを退会する事になった話

pixi「ねえななころび、ピクシブって知ってる?」

数年前大型連休で帰省した私に、請求書を持った母が聞いてきた。
私は「知ってるよ、私も使ってるし」と答えた。思わず「どうしたの?」と聞けば、母は悩んだ顔で請求書の中身を見せてくれた。
そこには「pixiv 500円」と書かれていた

これが不慮の事故で死んだ弟が残したpixivアカウントと私の戦いの幕開けだった。

● 突然死した家族

話はかれこれ数年前に遡る。
私は、不慮の事故で弟を一人失っている。
突然死だった。桜が散る春の時期だ。

弟が生前結んでいた様々な契約は、相続人の両親が解約手続きを行った。入金の可能性も考えて弟名義の銀行口座は解約せず、今後ある可能性の引き落としは両親の口座でできるように変更していた。

弟が死んだ数日後にpixiv名義でカードの請求が発生。その時点では両親は何かの年会費だと判断したらしい。

● 解約手続きの末に残った請求書


翌月もpixivからのカード請求が発生。請求が発生したのはなんとpixivだけだった。

弟は銀行が発行するタイプのクレジットカードを一つだけ所有していた。
両親はカードの明細書や弟が残した契約書を見ながら必要な解約の手続きを済ませていたが、pixivはWEBサービスなので契約書そのものが無い。
母親は何なのか知らなかったので、対応や何をすればいいのか全くわからず、よくわからないまま500円を支払っていたという。

★ピクシブ(pixiv)とは

pixiv(ピクシブ)は、イラスト・漫画・小説の投稿や閲覧が楽しめる「イラストコミュニケーションサービス」です。
引用URL https://www.pixiv.net/

今やピクシブ(pixiv)を知らないクリエイターはいないだろう。
内容については割愛するとして、弟はピクシブのユーザー(会員)だったが、いろんな機能がつく月額のプレミアムに登録していた。

pixiv比較

pixivプレミアム公式ページより引用

● 携帯は壊れてノートパソコンは真っ黒


弟はノートパソコンをスリープ状態にしている事が多く(理由はゲームをやるため)、亡くなる数日前も私と新作のPCゲームについて話していた。
母に弟のノートパソコンかスマホがあるかどうか尋ねると

「スマホは完全に壊れてて、ノートパソコンは真っ黒で直してもらってもパスワードがわからない」

の、一言でいえば「詰み」の答えが返ってきた。

従兄弟にシステムエンジニアがいたので、法事の時に話して、彼に頼んでなんとか起動できないか既に試してもらっていた模様。

「今の技術では無理。未来に託そう」

従兄弟の尽力で真っ黒画面から起動する事はできたらしいが、一度シャットダウンしたためパスワードロックがかかってしまい、どうにも開かずお手上げ状態になった。
そして冒頭―――帰省した私に母が聞いてきた。

「ねえななころび、ピクシブって知ってる?」


● アカウントとパスワードがわからない


大型連休の時期に帰省した私は、母からpixivからの請求を聞いてすぐ「それはプレミアム会員だよ。月額だから解約しないと毎月請求来るよ。すぐに解約しよう」と提案する。
しかしその提案は全く無意味だった。上記のようにログインができないためアカウントの解約ができなかったのだ。

したがって弟のpixivプレミアムは、こんな状況になっていた。

・プレミアム代金はクレジットカード支払い
・ピクシブのアカウントとパスワードが不明
・登録した本人が死んでる=なりすましだと思われるのでは?

私は頭を抱えた。
パソコンが起動できれば、アカウントやパスワードをメモした付箋アプリなりメモ帳のデータなり残っていたかもしれないのに……!

「仕方ない。あいつのアカウントを捜して問い合わせよう」

問い合わせするにもアカウントがわからないとpixiv側になりすましではないかと疑われるだろうし。本人がもういない状態のプレミアム会員解約の方法を教えてといきなり聞いたらpixiv側もびっくりするだろうし。

私は何万といるpixivユーザーのなかから、たった一人のユーザーを特定する作業に取り掛かった。

● 膨大なアカウントから特定する作業

今回、私にとって不幸中の幸いだったのは、弟のハンドルネームを知っていたこと、弟が自分のハンドルネームに愛着を持っており、一度も変更していないことだった。
弟がハンドルネームをバンバン変更するような性格だったら本当にお手上げだった。

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※画像はプライバシー保護の為モザイク処理をしています。

pixivは「ユーザー検索」で検索すると、「作品投稿ユーザー(※ここでの作品はイラストを指す)」「すべて」の二つに分類される。
弟はクリエイターではなかったので後者の「すべて」だった。
弟のハンドルネームを仮に「A」とするが、よく使われる名前らしく、検索してもざっと1000人以上はあった。

pixiv④_修正

※画像はわたしのpixivアカウントかつモザイク処理をしています

pixivの自己紹介には↑の画像のように誕生日と出身地を入力する箇所があるので、もしかしたら弟も入力しているのではないか、と考えて一縷の望みに賭ける事にした。

①すべてのユーザーで検索
②ユーザーをクリック
③プロフィールを確認


休みの間この作業(②と③)を延々と繰り返した。


根気よく捜し続けて数日後、ハンドルネーム・誕生日・出身地が全部該当するユーザーを見つける。
念のためブックマークしているイラストも拝見すると、弟の好きなジャンルばかりだったので、このユーザーアカウントだと確信する。

なんとかアカウントはわかった(?)が、結局パスワードは分からないままだった。

● メールアドレスがわからない


アカウントがわかるのだから、弟のメールアドレスでパスワードを再設定する方法も考えた。
間違っていたらエラーが起きるから正誤の判断もできる、一石二鳥だと。しかし問題が発生。
自動返信(?)されるだろうメールアドレスを確認する術がない。

ん?メールアドレス……? あっ!

「やり取りは全部LINEでやっていたから、弟が今使ってるメールアドレス知らない」

ここにきてLINEの弊害が出てしまった。
家族みんな弟とはLINEでやり取りをしていた為、弟が普段使っているメールアドレスを知らなかった。もはやこれまでか……!

母「弟くんのメールアドレス? これのこと?」

神は私を見捨てなかった。
母は、弟が亡くなる数日前までメールでやり取りをしていたので、母の携帯には確実なアドレスが残っていた。
これでアカウント・メールアドレスという解約三種の神器のうち二つが揃う。

● pixiv運営に問い合わせをした


しかし最後の一つ「パスワード」がやっぱりわからない。見当もつかない。ヘルプガイドをみても

パスワードは以下URLから再送することができます。再発行には登録メールアドレスが必要です。
https://myaccount.pixiv.net/password/reminder
パスワードは登録メールアドレス宛てに通知されます。登録メールアドレスが利用できない場合、
お問い合わせフォームからパスワードを紛失した旨をお書き添えの上、ご記憶にある範囲で構いませんので以下の情報をご連絡ください。

pixiv ID:
プロフィールページのURL、またはニックネーム:
登録メールアドレス:

登録情報と照合し再発行、再送に関するご案内を行わせていただきます。

pixivヘルプより引用

と書かれている上、2016年にはなりすましログイン事件があった事でpixiv側も警戒しているに違いないし、弟もそれで変更している可能性がある。

また、タイムリミットも近づいていた。
明日の朝、自分のアパートに戻らなくてはいけない(※大型連休が終わるので)。

これ以上打つ手がないと踏んだ私は、弟が突然死で亡くなった諸事情をpixivに話してプレミアムを解約したい旨を問い合わせる事にした。これだけ情報があればpixivも流石になりすましだとは思わないだろうと考えたためだ。

★以下、問い合わせメールに添付したこと★
・弟のアカウントIDとメールアドレスとハンドルネーム
・私(※送信者)と弟の関係と身分証明書
・突然弟が亡くなった事、請求が来ているプレミアムを解約したいがパスワードがわからないため解約できないこと

上記を記載して私のpixivアカウントからサポートセンターに送る。
返信用のメールアドレスは何かあるかもしれないと考えて、私ではなく相続人の父親のメールアドレスを入力する(父親には経緯を説明済)。

そして私は翌日の朝、電車に乗って自分のアパートに戻っていった。

● pixivからのリアクション

pixiv会社

※↑の画像はpixiv株式会社の会社概要より


連休明け、pixivから問い合わせの返事がきたと父親から私に連絡が入り、メールが転送される。

弟について御悔やみを述べてくれたうえに、そういう事情ならばと、特別で弟のアカウントのパスワードを載せてくれていた。
素早い対応ありがとうございますpixivさん!やはりpixivは神

● 無事解約、そして退会へ


その日の夜、私は弟のアカウントとパスワードでpixivにログインし、プレミアムを解約。
本人も亡くなっているので、pixivアカウントを退会(=いわゆる削除申請)し、その画面を両親に送って報告する。

なお支払いがクレジットカードなので、請求月がずれており、解約しても2ヶ月ほどプレミアム料金の請求書はきた。
しかしそれを最後に請求書がこなくなったので、無事クレジットカードを解約することができた。

こうして不慮の事故で死んだ弟が残したpixivアカウントと私の戦いの幕が閉じるのだった。


実は私もこの時pixivプレミアムに登録していたのだが、支払い方法を携帯のまとめ払いにしていたため、この事件から半年後に携帯の機種変更をしたことで自動的にプレミアムが解約されたことは内緒である。

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