夢見て跳ねる!(1600文字で夢を表現する)
「美月! はいこれ、お誕生日プレゼントよ!」
8才の時にもらった、白いウサギのぬいぐるみ。それが全ての始まりだった。
当時流行っていた子供用AIロボ「ウサミ」ちゃん。ふわふわの真っ白な毛に、青い瞳。ピンクのドレスを着たうさぎの子。性能は子供向けだからしてチャチで、話せるのは簡単な挨拶と話の相槌。それと有名な十五夜の童謡、「うさぎ うさぎ」を一曲、歌ってくれるだけ。
でも一人っこだった私の大切な友達になった。私達は毎晩いろんな話をした。
ある日、小学三年生だった私は、「将来の夢」を発表する授業でこう言った。
「いつか、動いて、しゃべれる、すごいウサミちゃんを作って、一緒に遊びたいです」
でもクラスのイジワル男子に「そんなことできる訳ねえ!」と一喝され、級友たちにも笑われて、恥ずかしくて悲しくて。その日以降、私はウサミちゃんと夢をクローゼットに押し込んでしまったんだ……。
それから十年。進路を決める時期、たまたまクローゼットの中で、ウサミちゃんを見つけた私は、夢を思い出した。そしてクリエイター系の学校への進路を決めた。
入学して少しして、様々な学科の仲間と、合同制作を行う課題が出た。その日私は朝から悩んでいた。製作内容を決めるミーティングで「ウサミちゃん」の話をするか迷っていたのだ。
また、からかわれたらどうしよう……と悩んで黙る私に、仲間が話しかけてくれた。私はやっと自分の夢を。ウサミのことを話す事ができた。
ーーまた笑われる!?
ギュッと目をつぶったら、みんな目を輝かせて言ってくれたんだ。
「それ面白そう! やってみようよ!」
って。
それからみんなで力を合わせて、VRゲームの製作に入った。擬人化したウサミと、現実ではありえない世界を冒険するゲームだ。私も汚れたウサミを机に置いて、一生懸命人間の姿をしたウサミの姿を描き起こそうと必死に頑張った。
そして。
とうとうゲームは出来上がった。最初のテストプレイをする段階になって、みんなは私にゴーグルを渡してくれた。
「最初のテストプレイヤーはもちろん、美月だよ」
ゴーグルをつけると、目の前一面に、夜のススキ野原が広がった。野原の向こうにかかる、白くて大きな丸い月。
その月の向こうから、小さな影が跳ねてくる。目を凝らすと……銀の髪に、ピンクのドレス、青い目をした、うさ耳の女の子、私がデザインした「ウサミ」が私の前に降り立った。今にも泣き出しそうな私に手を伸ばし、ウサミは言った。
「ずっと、ず〜っと、この日を待っていたんだよ! さあ行こう、美月!」
ウサミの手を取ると、ウサミは高く跳ねた。私の身体もウサミと一緒に、まるで風になった様に跳ねて、宙に浮く。
私たちは仮想世界のあちこちを、跳ねて回って冒険した。
真っ青な海を泳ぐ海獣の背中を滑り、不思議な生き物が潜む山に迷い込み、キャンディーの星が輝く夜空の下、色とりどりのジュースの滝をくぐり、異国の情緒あふれる賑やかな街を抜け、マカロンのお城のてっぺんに登ってベルを鳴らして……。
でもここはVRの世界。世界に終わりがある。冒険し尽くした私たちは、最終的に世界の果ての見えない壁の前で行き詰まってしまった。
「この先はまだ私達には作れないの。世界はここでおしまい。戻ろう、ウサミ」
私が言うと、ウサミは首を振って、ニッコリと笑った。
「おしまいじゃないよ、美月! 夢の力があれば越えて行ける。さあ一緒に行こう、力を貸して!」
私たちはギュッと手を繋いだ。繋いだ手からまばゆい光が生まれる。私とウサミはせーのっで、壁に光る手のひらを押し当てた。
ーーうさぎ、うさぎ、何見て跳ねる?
ウサミが歌う。透明な壁は粉々に砕け散り、飛び散る破片は七色に輝き、壁の向こうの闇を照らした。まだ見ぬ未来がそこにある。
私たちは笑顔で頷き合い、駆け出す。一緒に歌いながら跳ね上がり、壁の向こう、光の渦へと身を踊らせた。
ーー夢見て、跳ねる……!
※ノベルアップの、ショートストーリー作品コンテスト お題は「夢」(楽曲の元となるショートストーリーを募集)、に出した作品です。見事に玉砕しましたが、せっかくなのでこちらに移動してきました。
https://novelup.plus/event/amg-ss-contest/
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