第十話 藤袴
※任務中に行方知らずになった才四郎。それを知った小春は……。
「吉乃……吉乃……」
ここはどこだろうか。光一つない真っ暗な空間に佇んでいた。しかし。前方から知った声が聞こえる。私が自ら封じた過去の名を数年ぶりに聞いた。いや。それ以前に、この声。何年も聞くことが叶わなかったが、決して忘れることのない低く優しい声。そう。これは兄上の?
ーー兄様?
私がつぶやくと同時だった。前方。手の届かぬだいぶ離れた先に、ぼうっと青白い光が灯った。いや。人の上半身が浮かび上がったのだ。私は目を凝らした。ああ。やはり。行信兄様!
私が声を上げようとするのを諌めるように、兄は続ける。
「なんとか彼を守ってきたが……私の力もそろそろ尽きる」
きちんと結い上げてあられるはずの兄の髷から細い髪のが何本も垂れ、頬はこけ、見るのも心が痛むほどだ。兄様、一体何が?
「彼を……才四郎君を、迎えに来なさい。それまで私はなんとか堪え……彼を守ってみせる……」
ーー兄様? 才四郎がどうしたというのです? いえ、兄様も彼も。一体ど何処へ!?
「どうか……約束を……」
私は兄の元に駆け出そうとした。しかし足が地に縫い付けられたように動かない。兄の影が下からゆっくり闇に消えて行く。待って。待ってください兄様!
「兄様!!」
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