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第十二話 落花流水

※小春と才四郎の最期。彼らは許されるのか。


 私は川原に立っている。

 その川の流れは非常に緩やかで、とても静かだ。水音一つしない。空は冬の曇空のように灰色で、雲が低く厚くどこまでも垂れ下がっている。頭上遥か遠くでは、愛おしくも、懐かしい彼の息遣いや、声が時折響いてくる。空気は灰色の湿気を帯び、どことなく重い。対岸は霞みがかっているのか全く見えない。しかし目の前のそれが、なぜか川であることは分かる。

 私は空を見上げて、目を閉じて、彼の声を聞いている。声がしない時は川面を見つめる。

 ーー落花流水

 一体何処から流れてくるのだろうか。上流から? それとも対岸からだろうか。
 落ちた花が、水の流れに従い、川面を滑るように流れてくるのだ。四季は関係なく、萩であったり、次に流れてくるのは紫陽花であったり。百合であったり。その度に、その花にまつわる、彼との様々な出来事が思い出され、しばし感慨に耽る。
 私の親友のひなちゃんが昔言っていた。落花流水の情といえば、相思相愛の男女の仲について言うのだと。落ちた花びらは流水に浮かぶ。流水は花を浮かべ流れる。転じてそのような意味となるのだと。まさに、彼と私のことを言っているようだ。私は髪に挿した大切な宝物である、木彫りの櫛にそっと触れた。

 彼とはだいぶ前に離れてしまった。しかし、私はここでこうして、彼を待ち続けている。このように過ごす時間に、不思議と淋しさを感じない。姿は見えないが、彼をいつも傍に感じることができるからであろう。

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落花流水

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ーー落花に情あらば、流水にもまた情がある……。 戦国時代を舞台に亡国の姫と、彼女の暗殺の命を受けた忍の旅路を描いた、本編「雨夜の星」の後…

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