知床で学んだ「彼らの住処にお邪魔している」精神は、観光客の心得として今も携えている
ひとたび山に足を踏み入れると、名もわからない小さな虫たちが興味津々に私の顔の周りをブンブン飛び回る。
たまにドサ、と足元を緑色の物体が飛び跳ねたり、私の住んでいるところではまず目にしないデカすぎるトンボが、私のスレスレを機敏に通り過ぎていく。
もう、どっか行ってよ、と思っていた。これまでは。
今は、「びっくりさせてごめんね、お邪魔してます」と思いながら、彼らの横を歩くことができている。
きっかけは今年の6月、知床にハイキングに行ったときのこと。
6月はクマの活動が特に活発ということで、ガイドさん無しでは奥地までハイキングできない決まりになっている。私たち観光客はハイキングする前、テレビが2台くらい設置してある大きな部屋に6名ずつ入れられて、クマがいかに恐ろしい生物かを解説するビデオを観させられた。たった15分ほどの時間、恐ろしいBGMと共にひたすら「本当にこの地に足を踏み入れたいのか……」と脅されたのだ。
それに耐えて、それでも行くと決めた変人のみが無事に、「しょうがない、知床に入れてやろう」という認定を受けられる。ちなみに私たちツアー客は全員、変人であった。
その脅しビデオでも、私たちを引率するガイドさんも繰り返し伝えていたのは、「ここは彼ら(クマ)の生息域。私たちはそこにお邪魔する訪問者であることを、忘れないでください」ということだった。
「クマ=ヒトを襲う怖い生物」という認識が私たちにはあるし、実際被害に遭われている方もいるのだから、間違えではないのだと思う。
けれど、私たちはそんなクマの住処に「自ら」入っているのであり、クマにとっては不法侵入者。ヒトを見つければ驚き、警戒するのは当然だ。
これって、普段の観光でもおんなじことじゃない?
観光客は、その土地で住む人(動物をはじめとする全ての生物)の住処にお邪魔する訪問者。そこでの暮らしをいちばんに尊重するべきだし、阻害することはもちろんあってはならない。
訪問者である私をやさしく迎えてくれた智頭町の人々。もっとたくさんの人に来てもらいたいと思う一方、ここでの静かな暮らしを守り続けたい思いもある。
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