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推しが草を食った話

 突然ですが、あなたの推しは草を食ったことはありますか?

 いや、世の中色んな「推され人」がいるので、草どころか食ったら歯と白目が真っ黒になる秘境の果実とか、口が八方向に裂けてるむらさき色のモグラを鍋にしたりしてる人もいるかもしれないので、草を食うくらいなんてことないのかもしれないが、少なくとも私は先日、推しが草を食ってるのを確かに見たのだ。

 推しというのは言うまでもなくジャパンアクションエンタープライズ所属の俳優でありスーツアクターの岡田和也さんのことなのだが、その日も飽きもせずネットでスーツアクターさん情報を見繕っていたところ、過去に行われたとあるイベントの予告動画(※1)が出てきた。

 これを読んでいるスーツアクター好きな貴兄たちは参加したことがあることがあるかもしれないが、そのイベントこそ、同事務所の俳優である渡辺淳さんと永徳さんがかつて開催していた「WeekEnd School」というイベントであった。
 動画がアップされた日付を確認すると約6年前。再生すると今より少しだけ若い、でもほとんど今と変わらず、イケメンでやさしい語り口の淳さんがイベントの案内をしていたのだが(余談だが、このイベントは淳さんと永徳さんがアクションの「先生」という設定なので、淳さんの一人称が「先生は~」なのが超素敵だ。一瞬で淳さんの何がしかの生徒になりたくなる。)「今回は、三人の生徒(ゲスト講師)を紹介します」と言って紹介した三人のうちの一人が、なんと我らが岡田さんだったのだ!

 私は奮い立った。6年前の岡田さんが動画で残っているなんて!!
 現在、岡田さんは33歳であらせられるので6年前といえば27歳だ。ちょうど仮面ライダー鎧武でグリドンをやっていた時期であろう。若干20代後半でもう役付きのレギュラーを獲得し、更に先輩が行うイベントでゲスト講師を務めるなんて、さすが岡田さんとしか言いようがない。6年前、自分は何をしていたか思い出してみたが、コンテンポラリーダンスの研修所に通い、長野の山奥の廃校になった小学校の裏手に流れる川の中で、パンツ一丁で号泣しながら「アメイジング・グレイス」を絶唱したりしていた。そんな一歩間違えば公然わいせつ罪で逮捕されかねない痴態を繰り広げていた私に比べて、岡田さんのなんと素晴らしいことか。着実にキャリアを積み重ねる、そういう仕事に対して真摯な態度も、普段私が岡田さんを推している理由のひとつだ。本当に真面目な人だと尊敬の念を新たなにしながら動画の続きを再生すると、岡田さんが野生に生えてる草を食っていた。

!?

とっさに二度見し、なぜこの人は草を食ってるのかと思った。思ったというか「えっなんで草食ってんの」と声に出した。まだどこか少年の面影が残る、若かりし岡田さんが笑顔でその辺に生えてる草を食んでるではないか。いや、食ってると言っても別に食卓に草を載せているわけではない。もしそうだったら岡田さんの健康状態が心配だ。
 まさか本当にお腹が減って食ってるわけではもちろんなく、自己紹介中のいわゆるオモシロなシーンで、岡田さんならではの機転のきくアドリブでその辺の草を口にくわえてみただけだ、ということはさすがの私にも察しがつくのだが、それにしても岡田さんにとっさに草を食うというワイルドさがあったことにおどろきだ。

 何度かツイッターには書いているが、私にとって推しとは、ものすごく自分好みの味付けと量と盛り付けで出してくれる最高に大好きなレストランのシェフのような存在なので、シェフ(推し)の「人となり」というものにさほど興味がない。好きな店のシェフの血が例え銀色だろうが、信仰に従い一年に一度水神様に生娘を生贄に捧げていようが、休みの日に部屋の隅で体育座りをしながら定規の目盛りを数えて暮らしていようが一向に構わない。というか推しがステージや映像で見せてくれるもの以外は観客(私)に大して「提供されていないもの」だと考えているので、むしろあまり「人となり」を知ることのないようにしてきたつもりだった。実際私は、岡田さんの好きな食べ物もお気に入りの映画も母親の旧姓も何も知らないし、母親の旧姓は今後も知らなくていいと思う。そんな状況で、この映像はふいうちだった。ふいうちだったので避けられず、はしゃいで草を食ってる岡田さんをうっかり見てしまったのだ。

 岡田さんも、ただただふざけて草をくわえただけのことを(しかも6年前に)こんなに長々と書かれて本当に迷惑千万だろうし大変申し訳ないとは思うのだが、正直に書くと、はじめて岡田さんの「人となり」が見えたその瞬間、笑顔でその辺の草を食ってる推しを観て私は大変「可愛い」と思った。

 年上の男性に「可愛い」という表現は失礼にあたるかもしれないが、本当にかわいらしかったのだ。ほかのメンバーとの仲の良さも伝わってきたし、普段の撮影では見られない無邪気な一面にたいそう和ませられた。
 前に「誰かのことを『カッコいい』と思ってるうちはまだいいんだよ。『可愛い』って思い始めたら終わりなんだよ。『カッコいい』なら鼻水垂らしてたら『カッコ悪い』になるけど、『可愛い』と思ってたら鼻水垂らしてても『可愛い』ンだから」とかつて友人に教えられたことがあるが、まったくそうなのだ。だってよく考えたら27歳はその辺の草を無邪気に食む年齢ではないのかもしれないが、彼は私の推しであり『可愛い』から、その辺の草を食っててももう『可愛い』んである。推しってスゴイ。

 しかもこのWeekEnd Schoolというイベント、当日は岡田さんらがコント、アクション、トークなどを客前で披露していたらしい。お、お、お、岡田さんがコント!?!? その時の記録映像も東映特撮youtubeオフィシャルに上がっていて観たのだが(※2)残念ながらちょっと画質と音声が荒すぎてどういうネタなのかはまったく判然としなかった。にも関わらず、薄暗闇の中でかすかに確認できる動きが完全に岡田さんであることに感動した。歩き方も、笑った後もリアクションも、マイクを揃えた指先で持って軽く顎に当てて喋る話し方も。「6年前でも岡田さんは岡田さんだ……!」と、何を当たり前のことをという感じだが感極まって泣きそうになった。意味がわからないかもしれないが、推しが今も昔も変わらず推しらしく生きているというのは素晴らしいことなのだ。岡田さんを健康に産み、元気に育て俳優として送り出してくれた群馬のご両親に心から感謝した。

 しかしまぁ、なんとも羨ましいではないか。今すぐタイムスリップしてこの会場に行きたいくらい羨ましい。長野の川の中で裸でアメイジング・グレイスを歌ってる場合じゃぜんぜんないよアンタと6年前の私に言ってやりたい気分だった。

 しかもこのイベント、なんと出演した俳優のブロマイドが発売されていたらしい!というわけで「WeekEnd School vol.5」の岡田さんのブロマイドを当時購入し、譲ってくださるという方へ。私はあなたからの連絡を一生涯待ち続けますので、心当たりのある方はお声がけください。(←これがこの記事で言いたかったことです)

草を食っても推しは今日も素敵だ。たぶん、明日も明後日もずっと素敵だ。


※1 「Week End school~vol.5~」スペシャルCM
https://youtu.be/b9MyapMre0U 

※2 Week End NET School2月(3時間目)アーカイブ通信講座
https://youtu.be/pqIC7fZBlNw 


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