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“陶の旅人”中里隆の世界を掌で味わう。

歴史あるやきものの産地、唐津の名門・十二代太郎右衛門(人間国宝)の五男として昭和12年に生まれた中里隆は、伝統の形式に縛られることなく、アメリカ、欧州、中近東、東南アジア、沖縄、韓国。世界各地を巡り、そこで出会った土や釉薬を生かし、現地の人と交流をしながら生活の道具、うつわをつくってきた“陶の旅人”だ。

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仙人のような飄々としたお人柄も、音楽家、画家、文筆家など多くの異ジャンルのアーティストを引きつけるゆえん。世間のおじさまたちが憧れる「素朴で自然体の文化人としての陶芸家」イメージを体現しているのが、この人ではないか。

とはいえ、中里さんは有名作家ではあるので、作品展が開催されるのは、百貨店の美術ギャラリーか、それに類する敷居の高めな場所がどうしても多い。京都やまほんで個展、と聞いて意外に思ったが、テーマが「湯呑」と聞いて、それは気の効いた企画、と納得した。

同じ焼き物の中にも、値段にはカテゴリーによる位階(?)があって、茶碗を筆頭に、懐石器の向付となると、ぐーんと値段は上がる。湯呑みは「お手頃」組だ。

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ギャラリーに並んだ84種、300個の湯呑みにびっくり、数だけではない、唐津南蛮、絵唐津、三島、海外で製作したユニークな釉薬のものなど、こんなにたくさんの手があったのか。中里さんの作陶遍歴を、小さな器で一望にする、すんごい眺めが広がっていた。圧巻だ。

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思えば、作家ものの湯呑みに特化した展覧会はみたことがない。目の付け所がいいなあと思った。お客さんの財布にやさしいことはもちろん、湯呑みは毎日手にするうつわ。掌でじっくり、繰り返し鑑賞できるうつわでもある。

この展覧会の紹介を、和食の料理人向けの有料サイトwatobiに連載している「食のうつわジャーナル」に書かせてもらった。どんな高級料理コースでも、料理の最後を飾るうつわは湯呑み。向付に乾山や魯山人を使ってても、湯呑みがヘボいと帳消しだ。料理人は湯呑みで「残心」を伝えて欲しい。

中里 隆 陶磁器展 京都 やまほん オンライン展覧会も公開中 https://shop.gallery-yamahon.com/2021年10月27日(水)まで、会期中無休




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