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高橋匡太展 色と光の陰翳礼讃

京都新聞 2022年12月16日掲載

社寺や観光名所のライトアップや光のアートが人気だ。高橋匡太は、そうしたイベントが一般的になるずっと以前から、環境や建物に投光し、光と色の変化で、視界を一変させてきた。制作は全国各地で数多いが、京都では2017年に下鴨の旧三井家別邸を虹色に輝かせた。京都市京セラ美術館を十二節気の色に染める灯りも高橋の作品だ。  

藤井厚二、小川治兵衛。大正、昭和の空間クリエイターの合作



 屋外作品が中心だった高橋が、今展で、室内で鑑賞する作品を試みた。会場は、建築家・藤井厚二が1934年に設計した、数寄屋建築の元邸宅(登録有形文化財)。庭は、個人宅を手がけることの少なかった小川治兵衛7台の作で、生垣が三重にかさなる緑の深さで市中の山居が表現されている。

エコロジストであった藤井の空間は、光と空気が心地よく循環し、座敷も廊下もテラスのように明るい。高橋はこの建物の庭の景観や室内の意匠に干渉せず、採光も遮らない作品を構想した。茶室と座敷の障子窓の外から、ドローイングの図を彫刻した透明アクリル板を設置し、そこに色のついた光を投影する。光を通さない図の部分が、まるで染物を抜染したかのように白く浮かび上がる。

障子の上でうつろう二つの時間軸、和室を構成する素材の競演


障子の上では、プログラミングでランダムに色を変える人工光と、刻々と陰りつづける自然光とが重なり合い、ふたつの時間軸が偶然の光の景色を描く。日没すると室内は作品の光を残して暗転。それに伴い、和室を構成するさまざまな建材が、異なるトーンでその光と色に共鳴し始める。柔らかに光を透過する障子、底光りして光を写し込む呂色(ろいろ)の書院、おだやかな質感で広がる土壁。『陰翳礼讃』を引くまでもなく、和室は微弱な光を味わい尽す仕掛けに満ちている空間なのだ。高橋の光の作品は、それを増幅させる装置として働いている。

「没入」ではない、感覚を開く光のアート

技術の進歩は、大掛かりな投影作品とそれに没入させるプログラムを可能にしたが、高橋が一貫して取り組んできたことは、光を媒体に見慣れた環境への感覚を開き、そこにある美に気づきを促すことだった。和室の作品は、それを明らかにした。ACG Villa Kyoto=北白川小倉町(要予約・有料)


円相が浮かび上がった障子
街中とは思えない静けさの庭
日光とプロジェクション、異なる色が刻々と変化してシンクロする。
呂色の書院が底光りしている。


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