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30年めのグルーヴィジョンズ展。多様性の社会で“黒いチャッピー”が見る、デザインの夢は?

京都新聞 2023年1月28日掲載

1993年に京都で活動を開始したデザインスタジオ、グルーヴィジョンズは、音楽バンド「ピチカートファイヴ」のステージヴィジュアルを担当して注目され、印刷物のグラフィックデザイン、ファッション、食品パッケージと多彩にデザインを展開してきた。

展示は、これまで手がけた品を全て床に並べて、どこからでもフラットに見られる構成になっている。これは、大衆消費材であれアートであれ、「ものを全て平等に扱う」というグルーヴィジョンズの姿勢の表明だ。足元で30年間の仕事を俯瞰してみると“グルーヴィジョンズ好み”の淡いパステルカラーは優しく健やかで、軽快なロゴタイプからは、ポジティブな90年代「渋谷系」カルチャーの残り香も感じられる。

そんな中に、ひとり立っている人形が、設立当初に「着せ替え」キャラクターとしてつくられたチャッピーだ。当時登場したイラスト作成ソフト(Illustrator)の機能を活かして、チャッピーは肌や髪の色を変えて無限に増殖できる女の子という設定の仮想アイドルとしてデザインされ、CDもリリースした。

そのポップで表層的なイメージを、アーティストの村上隆が自身のスーパーフラット理論に共鳴するものとして取り上げ、チャッピーはロサンゼルス現代美術館などで開催された「スーパーフラット展」に参加している。

CD ウェルカミング・モーニング(限定盤) Chappie

さまざまな肌、目、髪の色をしたチャッピーが集積するヴィジュアルで、グルーヴィジョンズ描いたのは、枠組みも中心もないカラフルな世界の広がりだった。それは30年後に多様性の社会として現実のものとなるのだが、現代の社会はそのカラフルさをフラットに受け入れることができず、色彩は分断の影に曇っている。そう思って、会場のチャッピーをよく見ると、肌が褐色がかっていることに気づいた。「人を結びつける」という役割を、デザインはこれからどう表してゆくのか? そんな問いが立っているように、私には見えた。

2023年 3月12日まで


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