Yumi Nagashimaは、私たちの女芸人だ

えらい日本語達者な外国人が「日本のアニメを観るために日本語を勉強した」というのをよく聞く。好きこそものの上手なり、ですな。つまんないテキストで勉強してても進歩ないわけだ。

私はここ数年、英語学習のモチベーションが、「アメリカのスタンダップコメディのオチを聞き取りたい」に偏っている。スタンダップのネタの大半は人種などの差別、政治と下ネタ。メキシコ人コメディアンがアフリカンアメリカンを笑うポイントとか、ミレニアル世代のコメディアンが、笑いをまじえて同世代の声を伝えていたり。数分のコメディ1本がコラム10本読むより情報量が多い。こうした政治、社会ネタは日本人のお笑い芸人には難しいよなとおもっていたら、見事、やってのけていた日本人女性がいた。カナダのバンクーバーで活躍する女優&コメディアン、Yumi Nagashima (現在のステージネームはYumi)。

カタカナ英語に猫背、ぶりっ子という日本女性のステロタイプな姿でステージに現れ、「白雪姫って、日本人だと思ってた。だって、芸者みたいな白肌黒髪で、キモい白人男7人の面倒見てるし」と、観客の大半をしめる白人男性に向かって笑いを取っている。

Yumiも、アメリカのコメディアンと同様、スタンダップコメディの定番である社会問題ネタを正面から扱う。日本人女性として、日本人から見た日本社会のマズさ、女性の生きづらさは、Yumiの中心的なネタだ。「小さな島国の日本に暮らしていたから、人種差別が何なのかわからなかった」「日本のおばあちゃんは私に『よき母、よき妻になれ』と言いました。私はそれをよーく聞いて、、、screw that!(クソくらえ!)カナダでスタンダップコメディアンになりました」。

日本人のぶっちゃけトークがカナダやアメリカでこれがウケているのも面白いが、そもそもこんな形で自己表現する日本女性の姿を見るのが初めてで、そのことに驚いた。人気のスタンダップコメディアンにはマイノリティが多い。マイク一本で世界に向かって立つ。その世界が、自分に偏見をむき出しにしていればしているほど、笑いの破壊力は大きくなる。コメディアンが攻撃している差別意識に身に覚えがあるから、抱えていたガスが破裂するような笑いが起こる。スタンダップコメディは、観客も演者も、笑いが何かを変えてくれると信じているから熱い。身をさらして笑いを取るコメディアンへのリスペクトは、とても熱い。Yumiはこのジャンルから学んで自分だけの「日本女性としての立ちかた」を打ち立てて、リスペクトされている。これ前人未到ではないか。

日本のお笑いは、「おおぜい」の間に共有されてる空気をすくいとるような芸が評価される。日常の「あるある」な出来事から取材したネタが多いのはスタンダップと同じだが、「これを笑える俺たち」の共通認識をくすぐるところで笑いをとるところに妙がある。これは観客が同じ言語や経験を共有していることを前提とした細やかな心理芸だが、「変わってる人」「空気読めない人」を差別する心性と、根っこが近いともおもう。これから「日本語がわからない観客」も今後、確実に増えるが、こういうお笑いは、持続可能だろうか。

あえて日本アクセントでゆっくり話すYumiのショーは、日本人にも聞き取りやすい。勉強しなくても大丈夫。カナダに住んでいる日本人の彼女の独壇場と言えるのが、海外で噂されてる日本人女性の下ネタ、日本人の女から見た「キモい白人男性」を笑う「仇討ち」系のネタ。ああ、こんなエンターテイナーを待っていた。Yumiは、私たちの女芸人だ。

スタンダップは日本人の笑いからは遠すぎると思っていたが、日本なりの突破の仕方があるのではないかと、Yumiを見てからは思えてきた。渡辺直美がNYでスタンダップコメディに挑戦したいと公言している。ぜひ、吉本興業ではできない芸で、世界に向かって立ってほしい。

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