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フランソワ・バシェの音響彫刻とメガネ

2023年10月21日 京都新聞掲載

70年大阪万博の「鉄鋼館」は、建物自体を楽器に見立てた壮大なパヴィリオンだった。そこで展示されたのが、フランス人アーティスト、フランソワ・バシェの音響彫刻だ。鉄の棒や板で構成されていて、擦ったり叩いたりした振動を増幅させて音を出す。当時の最新技術を駆使した鉄鋼館の中では素朴なものだったが、予期できない音を奏でるこの不思議な作品は、今なお人を魅了する。坂本龍一もバシェ彫刻の音を作品に取り入れた。

会場には、山ノ瀬亮胤(りょういん)の制作したメガネとともに、日本で制作された17基のバシェ作品のひとつ「桂フォーン」が展示されている。2015年に京都市立芸術大学で修復・復元されたものだ。山ノ瀬は、江戸金枠職人の七世を継承したオートクチュールメガネのアーティストだが、造形から視覚へとアプローチする自身の創作と、造形から音響へとアプローチしたバシェの彫刻との間に共鳴するものを感じ、自分の作品とのインスタレーションを制作した。

山ノ瀬は、メガネのフレームだけでなく、ネジなどすべてのパーツを手作りする。竹を削り出したツルの微妙な曲線は、それをかける人の顔かたちと出会うことで、世界に一つの造形として完成する。手で組み上げられたバシェの彫刻が、演奏する人、聴く人によって変幻自在に響くように、造形表現が身体性をおびる面白さがそこにはある。

SUGATA=中京区室町通二条下ル22日まで 入場500円)

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