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中川周士キュレーション。前代未聞の「桶だけ」展で、「触媒」としての工芸を考えた。

「室礼展」 京都新聞 2023年 4月8日掲載
京都の木桶職人三代目・中川周士は、流線形や一本箍(たが)の桶など、斬新なデザイン、家具や家電への転用にも挑戦し、作品はヴィクトリア&アルバート博物館などにも収蔵されている。その中川が「桶だけ」の展覧会をキュレーションした。

 大原弘也は桶のコーヒーメーカー、斎藤皇輝は桶のベンチ、伊藤雪菜は桶への絵付、近藤太一は曲木の取手を組み込んだ桶、鈴木大樹は制作過程にヒントを得た照明具。曲木オブジェは亘章吾の作品だ。いずれも中川の工房で学んだ職人、作家たちだ。木桶の定義を中川は「短冊状の板を組み合わせて箍で締めたもの」とするが、若手には多様な桶作りを促している。


YouTubeで桶づくりを学んだかずまの作品。手取りの軽さや使いやすさは、明らかに「桶から転用したテーブルウエア」ではなく、「テーブルウエアとして発想された桶」という感じがする。



 繊細な柾目を生かす京都風の木桶のほか、質実剛健な「用の桶」もある。玄関の高さ2メートル近い大桶は、四国の発酵番茶作り用。不規則な板目の模様と竹の箍が力強い桶は、五島列島の味噌桶だ。発酵食品が注目され、昔ながらの仕込みに回帰する中で、木桶は再び見直されている。また、桶は部材に間伐材を用い、分解して修繕できるなど、現代のエコ的な価値観にもかなった道具だ。

 プラスチック製品に置き換えられ、絶滅すら危惧されてもいた木桶が生き延び、ここ10年で職人の増加を見ている国は、日本のほかにない。桶職人の技の動画は国内外から何万人もの視聴者の注目を集め、出品者のかずまは、ユーチューブを参考に桶作りを独学した。

 この桶の展示に加え、シュヴァーブ・トムのキュレーションで、6人の写真家が作品を展示する。内容物を保護し、醸す桶と、記憶や時間を封じこめる写真。並べてみると、両者の機能には意外な共通点が伺える。こんにち工芸の役割は実用から、創造の触媒、身体、時間、有限性の隠喩へと拡張している。写真家にはジョン・アイナーセン、ジョン・チョイ、レイン・ディコ、星野裕也、アルマ・シャンツァー。

THE TERMINAL KYOTO=新町通仏光寺下ル、5月14日まで


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