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記憶の地下室
最深部のさらに奥
厳重に鍵をかけた扉を開く
蜘蛛の巣や分厚い埃の層を払う
すぐに開けられた箱の中には
粉々に砕けたガラス細工
ひび割れたカップ
切り裂かれた写真
壊れたオルゴール
虫に食われた本たち

何重にも鍵のかかった箱たち
そのうちの1つを開けてみる
鍵を1つずつ外していく
幾重もの包みをそっと開いていく
幾多の包みの中から出てきたのは
艶やかな真珠
虫入りの琥珀
透明度の高いルビー
神秘の翡翠
ピンクダイヤモンド

別の箱の鍵も1つずつ外して
おそるおそる開けてみれば
やはりぎっしりの宝物
昨日のことのように鮮やかに蘇る
奇跡のような幸せの欠片たち
アパートの一室
優しく差し込む西日
交わした言葉たち
肌のぬくもり
雑多なにおい

まだ開かないいくつかの箱たち
鍵が壊れているのかもしれない
でも無理に開けなくてもいい
たくさんの宝物を持っていたことを
もう十分確認したから
時間は一方向にしか
進まないんだ
地下室を出て
階段を上る
確かな足取りで

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