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付き添い登園③〜息子が私に手を振った日〜


【回想録】



付き添い登園も、初めは1週間もすれば慣れるだろうと思っていたが、

いつの間にか季節は、新緑の季節から、木々が色づき始める季節へと移り変わっていた。


その半年の間、私は今までに味わったことのない感情に押し潰されそうになりながら、
自分を責め、息子を責めた。
ある日突然に始まった不登園。
玄関で「行きたくない」と泣き叫ぶ息子。
バスに乗れなくなり、教室に入れなくなり、私から離れられなくなった。
今までできていたことができなくなった。
あたり前があたり前じゃなくなった。

「もう、気持ちがパンクしちゃったの」

その息子の一言から、私たちの生活は一転した。

毎日、その日を生きることで精一杯だった。


いよいよ文庫に寄らずに、「ちょっと用事があるけどすぐ戻るよ」作戦を決行する日がやってきた。


吉と出るか、凶と出るか・・・。


園に着くと、息子は教室には行かずに園長先生のいる事務所に向かう。
いつも通り園長先生がすぐに来てくれた。
私は、ドキドキしながら作戦を決行した。

「今日、お母さん、区役所にちょっと行かなくちゃいけなくて、用事終わったらすぐ戻って文庫で待ってるから」

息子は、え、、、という顔で、不満気だ。


しかし、園長先生が、

「すぐお母さん戻って来るから、先生と遊んでいればいいじゃない」

と、すかさず助け舟を出してくれた。
息子はかなり不服そうだったが、「すぐ戻ってきてね」と、なんとか承諾してくれた。

私は気が変わらないうちに逃げるように立ち去った。


よしよしよしよしよしよし!!!

私は心の中でガッツポーズをした。


そして、初日は、約束通りすぐ園に戻った。
もうくノ一母さんの姿はそこにはなく、堂々と門を開け、「息子よ!母は今、戻ったぞ!」と胸を張って園庭を歩いた。

文庫に戻り、暫くすると息子が様子を見に来た。
私は、(ね?ちゃんと戻ってるでしょ?)というドヤ顔で息子を見た。
お弁当に誘われるかと思って自分の分も用意してあったが、もう息子は、見守り先生と教室で食べることがあたり前になっていた。
この時、心からホッとしたのを覚えている。
私は1人文庫でお弁当を食べた。

「すぐ戻るよ」作戦が暫く続いた。
毎日理由を考えるのは大変だったが、なんら疑われることなく離れられた。
お弁当も、1人文庫で食べる日が続いていた。
息子も全然私のところに来なくなっていた。

私は、文庫にある銅像(文庫創設者)を見ながら、思った。


私、いる?


もう思いきって、文庫に戻るのやめてみるか。
お迎えの時間にしれっと来てみるか。


愛しの次男に協力してもらうことにした。
『次男と一緒に登園して、次男を実家に預けるから一旦家に戻らなくてはいけない。預けたらすぐ戻る』と、いった感じだ。
いつもは、両親が午前中次男を迎えに来るのだが、用事があって遅れる、とかなんかそんな理由をつけた記憶がある。

もちろん、すぐ戻らないヨ。
なんか言われたら、適当にごまかそう(私も図太くなったもんだ)



次男としれっと迎えに行ってみた。
何にも言われなかった。
あっさり成功してもた。
拍子抜けする、母。


その日から、次男を実家に預ける毎日が終わり、

長きにわたる私の文庫時代が幕を下ろした。



季節はすっかり冬。
イルミネーションが街を彩る季節に移り変わり始めていたある日。

息子が言った。

「ねぇ、お母さん、今度から、Sくん(次男) 預けに家に戻ったら、そのまま家でお仕事しててもいいよ。僕寂しいけど、頑張るから」


と。

初めて、息子から「帰ってもいいよ」と言ってくれたのだ。


私は、息子を抱きしめた。
言葉にならなかった。
喉の奥がきゅうっとなった。

ありがとう。
勇気を出したんだね。
あなたを誇りに思うよ。
大好きだよ。

息子は、照れながらも嬉しそうだった。


私は、「じゃあ、あとで迎えに来るからね」
と言って、頭を撫でた。

息子は、見守り先生と手を繋ぎながら頷いた。

見守り先生に「お願いします」と、挨拶をした。
私も、先生も涙ぐんでいた。


教室前の外階段を降りて、園庭を横切り駐輪場へ向かう途中、後ろから息子の声が聞こえた。

「バイバーーーーーーーイ!」

振り向くと、2階から見守り先生と手を振っているのが見えた。

「バイバーーーイ!」

と、私も手を振った。

駐輪場から私の姿が見えなくなるまで、そのやりとりは続いた。


「バイバーーーーーーーーーーーーイ!」


一生懸命叫ぶ、息子。


私は、もう胸がいっぱいだった。


「バイバーーーーーーーーーーーーーーイ!」


自転車に乗って幼稚園を後にする私の背中に向かって、息子は、見えなくなるまでずっと叫んでいた。


背中に息子を感じながら、自転車で坂を降りていった。
冷たい風が気持ちよかった。


泣きながら自転車を漕いだ。
胸がいっぱいだった。


家に着いた。

カチャッと自転車を停めた。

私は大きく深呼吸をして空を見上げ(どっかで聞いたこのフレーズ)



(うおぉぉぉーーーーーーーーー!!!!)


再び出ました!ショーシャンク!!

映画「ショーシャンクの空に」


この時も、この画像をママ友に送ったっけ。

あれから数年経った今もなお、この画像はことあるごとに、ちょいちょい登場している。
その度に「おめでとう!!!」と返してくれる我が心の友よ、ありがとう。


noteを読んでくれている友だちが、メッセージをくれた。

「ごめん。記事読んで笑っちゃった。大変だったと思うんだけど、笑っちゃったよ、くノ一母さん」

と。

大いに笑ってくれたまえ!!!!

たくさん、笑ってほしい。

あの辛くてしんどかった過去が誰かの心に届き、そして誰かを笑顔にしてくれたのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。
救われる。

「笑う」

って、素敵だ。

今現在も渦中にいて、しんどくて辛い日もたくさんある。
いつまで続くのか、どうなるのか、
不安に思うことばかり。
信じたいけど、心配ですぐ心が折れそうになる。

でも、きっと、笑って振り返られる日が来る。

あの、とにかく辛くてしんどかった幼稚園時代を、今こうやって笑いに変えることができたんだから。

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