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いよいよ大学病院にて。細胞診と小さな違和感 (#6)

2023年5月

左胸に不審な痛みがあり、念入りに触るとしこりを見つけた。
翌日15日に近所の胸専門のクリニックで乳がんを発見され、すぐに大学病院を紹介された。
「当クリニックでは、K病院とJ病院どちらかに紹介状が書けますけど、どうしますか。」と言われた。

その時、気持ちは動揺しているのに頭の中では「今後長く通うことになるんだろう」と妙に合理的に計算が働いて、通院の楽な近い方の病院を紹介してくれるように頼んだ。

後に聞いた話だが、個人クリニックから大学病院へ紹介し患者が来た場合には、個人クリニックにキックバックが発生しているとかしないとか。

そうだよね、紹介状って基本はどこのどんな病院にでも患者の希望のところへ書かなくちゃおかしいものね。
こんなところにも利権。世の中の一端を見た気がした。

翌日、紹介されたJ病院に予約が取れて行く。

J病院は、できて数年しか経っておらずとても清潔で綺麗だった。
事務的な設備も充実していて、会計も早そう。

初めていくJ病院は、フードコートで料理の出来上がりに使う呼び出しの機械を1人づつに持たせて、患者の診察の流れを管理していた。
機械の通りに自分の診療する科にチェックインしたり、診察室に呼ばれたりするのだ。

全てが流れ作業で、感傷に浸る暇がない。

診察の順番が回ってきた。どきどきしながら診察室の扉を開ける。
30代半ばのサッパリとして仕事の早そうな女医さんが笑顔で挨拶をした。

細胞診をすることになり、初めて麻酔した胸に大きな注射針を刺して細胞をとる。
おっぱいにそんな針を刺すと思うだけで気絶しそうに恐怖である。

私は自分が、医療行為にとっても弱いということを知らなかった。
医者に色々されるのが怖くてたまらない。よくない妄想が止まらない。
パニック障害があるせいかもしれない。

薄暗い診療台に上で、エコーを当ててがん細胞のある場所を探しながら針を入れる。

涙がボロボロ流れた。
なんでこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ。心の中で、一体なんの罰なのかと思った。

針がそれを仕留め、中で細胞を取るためのホッチキスのような「バチン!」という大きな音と共に痛みが走った。

「よく頑張ったわね〜!」
「はい、よく頑張った〜」と周りの看護師さんたちが子供にするように褒めてくれた。

なんだろう・・・
この感じ。褒められて嬉しい。けれど、心の奥に小さな違和感。

そうだ、これは老人ホームでお年寄りが扱われている時の話し方だ。
それは弱者に接する時のもので、私は急に守られるべき存在になったような気がして悲しかった。

テキパキしたその女医さんは、今後の治療計画を説明した。
細胞診の結果がわかったら、全身をMRIで撮る。そして、今の体の状況を把握して対策するということ。

1週間後に病理の結果がわかった。
やはり悪性真生物、つまり「がん」だった。

私のがんは、1.9センチ。
3センチ離れてもう一つ小さな点が確認された。

忙しそうにそれでいて丁寧に先生が「左胸を全摘出するのがこの症例に対しては標準だと思います」と言う。
私の場合は、大きなものの他に小さいものが見つかっているから部分切除でない方が安全だと言われた。

「手術の枠だけは抑えないとどんどん埋まっちゃうから」と先生が日程をせかした。そして、最短の2ヶ月後、7月に手術の予約を入れた。


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