カラー・アウト・オブ・スペース

原題:Color Out of Space
監督:リチャード・スタンリー
2020年
アメリカ・ポルトガル・マレーシア(111分)

ひどい映画です。最初に言っておきます。ドイヒー。

自分は映画の感想を書くとき、作品を
①すごすぎて言葉にできない作品(書けない)
②文章でまとめられる程度の中身がある作品(書く)
③感想を書く気も起きないゴミ作品(書かない)
の3パターンに分けているんですが、今回新たに
④こんなクソ映画を2時間弱見せられたことに対するこのやり場のない怒りを他人にシェアしたくなる作品
が現れました。おめでとう!

ラヴクラフトの短編「宇宙からの色」が一応原作ではあるんですが、ほとんど違う作品になってます。
まず大前提として原作を読んでいないと内容が意味不明(読んでても意味不明だけど)。変更された設定、削除されたくだり、付け足された意味のないシーンと、情報が入り乱れすぎていて場面間のつながりがうまく理解できないんじゃないかな。
ひとつでも要素が欠けたら損なわれてしまう物語の調和を見事にブチ壊してくれてます。やってくれたな…

まず手始めに、登場人物の名前と性別を変えた意図が不明。なぜ変えたのかマジでわからん。
娘が黒魔術オタクという設定も、「宇宙や異界とはなんの関係もない凡庸な家族」が標的になるという理不尽さを打ち消してます。「余計な要素」ではなく「作品そのものの意図が損なわれる要素」です。

そして時代背景が現代になっているのも引っかかる。
外界との交流手段がない時代の山中という閉塞感と、今では確かめようのない昔話というフォークロア的な要素が上手く表現されていない。
そしてアミ・ピアースをチョイ役にした理由も分からない。アミが端役に回されたおかげで、原作では(地元の古老であるアミから伝え聞いた話の)語り手である水質学者が登場する意味もなくなってしまった。謎のヒッピーなんか出してる場合じゃない。

原作では隕石は徐々に縮んでいき、最終的に現れた球体の中から「何か」が数体出てくるんですが、この映画ではその過程が丸々カット。予備知識のない視聴者は「なんで隕石消えたん??」状態になりそう。隕石は単なる「乗り物」であり、本体は中身であることが描写されないおかげで恐怖の本質がブレまくり!

「謎の生命体は人間や動物の生気をエネルギー源として吸い取る」ことも、演出が下手すぎて何が起こっているのかわかりません。
ムダにクリーチャー化させたり、指を切ってみたり、変容と狂気を視覚的に伝えようとしたんだろうけど、結果チープで退屈なB級ホラーと化しただけ。
そして逆に野菜の味が悪くなったことに関しては、異界の影響を受けたことを示唆する描写が無い!ただ吐き出すだけ!ヤギより先にトマトをクリーチャー化しろよ!

一家全員が生命体に蹂躙された設定もどこへやら、ニコラス・ケイジが銃殺される始末…もうガッカリですよ…棲みついていた井戸から宇宙へ帰っていくラストシーンも何がなにやら…ただビカーーーッ!と光って終わり。
何より、全ての生命体が帰っていったのではなく、一体が井戸の底に未だ残っているという設定は削ったのか?そこがこの作品のいちばん怖いところだろ…

日常がゆっくりと静かに崩壊していく不安、外宇宙の高次の存在にとっては人間など取るに足りないものであるという恐怖、養分を吸い尽くしたあとは用済みとばかりに去っていく理不尽さと後味の悪さが全く感じられない。

変える必要のないところまで変え、付け足す必要のないものを付け足し、全てを台無しにしている…ここまで来るともはや作品に対する侮辱です。
もしラヴクラフトが生きていたら激怒してると思います。ていうかあの世でブチギレてんじゃないかな。墓から蘇ってくるかもしれませんね。そしたらサインもらお〜。

高い評価を得た作品って紹介されてるけど、どこがやねん!オススメ度はゼロです。