身体性と物理的な音楽自体への影響

フォルテピアノ(1835 Gerling)とピアノの違いを見てみた。

ピアノの親であるフォルテピアノという物は、同じ鍵盤楽器でも、ピアノとは、そしてそれぞれ楽器により全然違う音が、違う指の動きにより出る楽器であり、特にこの時代に作曲された曲(この楽器はシューマン)などの楽譜の向き合うとき、一度は弾いてみるべき楽器である。
ペダル、フレージングや、何を意味して書かれた音なのかの理解が、モダンピアノを弾いていても得られない物を学べる、そんな経験を与えてくれる貴重な楽器である。

モダンピアノが体全体(上半身全体)を使って弾くと言えるのなら、フォルテピアノはもっと指の動きや手首の動きをしなやかに、繊細に弾く必要がある。

この違う動きを使う理由は楽器の造りにある。まず一番先に感じるのが重さ。

このフォルテピアノの鍵盤の重さは40g


モダンピアノは40gではここまでしか鍵盤が下がらない

しかし一番違うのは、鍵盤の深さだ。 

鍵盤が見てくれ明らかに浅い


フォルテピアノの鍵盤の一番奥の深さは、モダンピアノの鍵盤のdouble escapement(グランドピアノの、鍵盤の弾力があり、カクっとなる場所)の上と同じ程、つまりモダンピアノで大きな音を出そうとするとフォルテピアノの一番奥まで弾いたところからさらに速度を上げて、一番早い速度でさらに押す(という表現は好きではないが)必要がある。

次に、ハンマーの違い。
ピアノは大きなフェルトでできているが、フォルテピアノは革で、しかも楽器による違いがあるにしろ、かなり小さい。これは鍵盤が軽い一つの理由であり、あのコロコロした音の理由でもある。当たった時のインパクトがフェルトの大きなのとはだいぶ違うのだろう。

フォルテピアノのハンマー
ダンパー(右ペダルを踏むと全部が上がる)上に貼ってある紙がバーコードなのとかあって面白かった


そしてペダルを踏むと、全てが持ち上がる仕組みのダンパーである。あと数個どうなってるのか短い動画を撮ったので上げておく。



なぜこの楽器の違いを見ようかと思ったかは、幾つかの理由がある。

いわゆる「成功しているピアニスト」で中学生以降からピアノを本格的にやり始めた人は少ない。なぜだろうか?なぜ10歳からピアノをはじめて20歳でプロ並みに弾けるようになるのに、20歳からはじめて30歳でプロ並みに弾けるようになったというのは聞かないのか?

色々と考えてみたが、考えられる理由は二つしか見つからなかった。
1. 大人になってからではダメだ、など、数多くの精神的に自分でかけているプレッシャー
2.肉体が発達するときにピアノを練習していないという事
1は何とかなる。しかししたら問題は2であるのではないだろうか。

もう一つの疑問、なぜ沢山のフォルテピアニストは、レパートリーが限られるというデメリットにも関わらずピアノからフォルテピアノ専攻に変えたのか。
私のフォルテピアノの先生は「どうしてもピアノは大きくて、しっくりこなかった。自分が小さすぎるように感じた」そしてフォルテピアノに可能性を感じたと言う。
フォルテピアノの音が本当に好きで変える人や、更なる表情を深める目的で変える人ももちろんいるが、ある成功を収めている、尊敬している素晴らしいピアニストはこう話していた。
「フォルテピアノを学ぶ事によりモダンピアノの技術を少し犠牲にしている。それでも得られる物の方が大きい」と。
得られる物とは、その書かれた時の楽器で弾く事により深まる理解の他、ニュアンスによる指遣い、手や指の動かし方、フレーズや曲の捉え方、等数えきれない程の物を学ぶ事は、遊びで弾いてみてるだけで一目瞭然である。

技術とは一体何を指しているかも問題になる。
という事で人が弾いていて「あ、技術が少し足りていない」と思う瞬間は実際何が起こっているのか、ここ数週間観察をしてみた。
結局結論は、「弾くべき鍵盤を必要な速度/強さで押せていない」
更に言うと、大体の場合「弾くべき鍵盤を押す力が強すぎる場合でなく、足りていない場合がほとんどである」

力とはこの場合あのニュートンの法則のForce (F)であり、
F=ma
つまりacceleration (加速度)とMass(重さ)が足りていない、
という事になる。
(ちなみにとても面白い論文を見つけたので貼っておく)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/49/3/49_KJ00001456806/_pdf/-char/ja

二つの楽器を行き来しながら交互に弾いてみて気づいたのだが、フォルテピアノは「しっかり」弾くと、fの音が出る。しかしピアノを同じ「しっかりさ」で弾くと、ふつうのmfが出てきて、そこから更に倍くらい「しっかり」弾く(押す)事により、更に大きな音が出る。ピアノのfにもそしてまた色々ある。ポーンと響くようなfや、鋭い平打ちする様なfやら。
そしてpについても全く同じ事が言える。つまりピアノはFoeceの幅が二倍又はそれ以上に大きくなった楽器である。

話を最初に戻して、鍵盤の重さと深さに注目してみる。
モダンピアノの鍵盤の重さは50~55g。このフォルテピアノの重さは40gであった。
ショパンスケルツォ1番の初めの音。左手4音、右手3音計7音取る場合、音を取るだけで、フォルテピアノで弾くのに比べて、最低限(50-40)x7=70gの
差がある。それをffで弾こうとなると、(ハンマーが弦にあたるある一点に最大加速度を持ってくることをffで弾くと言う事と仮定)
そして鍵盤の速度が、最大音量を比べた時、フォルテピアノよりピアノの方が倍速いと仮定する。
モダンピアノの鍵盤の深さは11mm程。10mm当たりでハンマーが当たると仮定。
ChatGPT によると、大きな音を出そうとした時の鍵盤の速度は5-7m/s。
間をとって6m/sに10mmの距離でゼロから加速したとなると、加速度は180m/s^2。
180x55=9,900
このフォルテピアノの深さは7-8mm。一番底で音が鳴るので
同じく6m/sに8mmの距離をゼロから加速したら加速度は225/s^2
225x40=9,000

9,900x7-9,000x7=6,300

、、、とかいう計算はまあおいといて、多分相当誤差もあるので。
ともかく何が言いたいかというと、話せるより前に、音楽があり、その前にダンスがあり。ダンスの動きからリズムができ、それから音楽ができているーというあるソースからの過程で言っても、音楽はそもそも楽器や体が元になっていて、それ要素が最近になって歴史的に初めて無くなって、(例えば機械音楽とか)コンピュータソフトにより音を出すようになり、確実にそれは認識しておく事実だと思う。音楽家、音をあやつっている職人は、最近の音楽を知らないといけない。

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