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ラクドスミッドレンジ奮闘記〜その思考囲い本当に今打ちますか?〜

1.はじめに

自分はラクドスミッドレンジを使用してチャンピオンズカップファイナルシーズン1サイクル3のエリア予選を突破することが出来た。
ラクドスミッドレンジというとMTG強者が使うデッキという先入観があり(少なくとも自分にはあった)、そのデッキについて語られることがどことなく憚られているような空気が蔓延している印象を受ける。それ故に日本の競技シーンでは本デッキのデッキガイドも少なく、自身が困ったという体験もあったので、備忘録代わりに本記事を残そうと思う。

2.ラクドスミッドレンジの概説


ラクドスミッドレンジというのは名前の通りミッドレンジデッキという分類ではあるが、優秀なクロックで有利なアタックをし続けるという点で性質としてはアグロデッキに近いと考えられる。
歴史的に黒系統のミッドレンジデッキというのは優秀なクロックを除去とハンデスでバックアップするという構造をとることが多く、その流れを踏襲しているとも言えよう。何ならラクドスミッドレンジはメインボードには《税血の収集者》、《鏡割りの寓話》、《砕骨の巨人》の3種類しか赤いカードが入っていないケースもあり、残るパーツを見ると黒単アグロと極めて類似するため、本質的には黒単t赤ビートダウンと呼んで差し支えないレベルだと考えられる。
そんなラクドスミッドレンジだが、現在は主に2つのタイプが主流となっている。

1つ目は八十岡翔太氏が使用した通称ヤソドスである

ヤソドス

https://www.mtggoldfish.com/deck/5421577#online

このリストの特徴は《苦難の影》と《変わり谷》にあると考えられる。




毎ターン最大マナをきっちり使用し、速やかに相手を介錯することが出来る、攻撃的なラクドスミッドレンジと言える。


2つ目はmisplacedgingerことDerek Pite氏が使用した通称ミスプレドス(多分呼んでるのは自分だけ)である。

ミスプレドス

https://www.mtggoldfish.com/deck/5421507#online

このリストの特徴は《ロークスワイン城》と《勢団の銀行破り》をたっぷりと採用している点にあると考えられる。




一般的な除去コントロールは1対1交換を繰り返し、どこかでカードアドバンテージをとることでその差を勝ちに変換していくという勝ち筋をとるが、このリストはその勝ち筋を強烈に意識しており、防御的なラクドスミッドレンジと考えられる。
どちらのリストがより優れているというのは一概に語れないが、現在流行しているラクドスミッドレンジはどちらかのタイプに寄っているかを論じることは出来る。ラクドスミッドレンジを扱う上で攻撃的か防御的かというのはプレイ指針というゲームの根幹には関わってくるため、意識する必要はあるだろう。

3.ラクドスミッドレンジにおける《思考囲い》の扱い


パイオニアベストカード

現在パイオニアをきちんとやっているプレイヤーに「パイオニアのベストカードとは何か?」を問うと大抵《鏡割りの寓話》か《思考囲い》という答えが返ってくることが多い。

参考:第10期パイオニア神挑戦者決定戦

ラクドスミッドレンジはこのどちらも採用しているから最強デッキだ、とまでは言えないが、これらを上手く扱えるミッドレンジデッキだから押しも押されもせぬTier1の王者デッキとしてパイオニア環境に君臨しているのは間違いないだろう。ただ、《鏡割りの寓話》は自動で勝ちに近づくカードであるのに対して、

《思考囲い》は覗いたハンドをランダムにディスカードしていても勝ちに近づかないという点で使い方に大きく差が出るカードであると言える。
《思考囲い》についてはすでにReid Dukeがこれ以上ないほど雄弁に述べているので私が特段語れることは少ないが、

参考:Thoghtseize You

https://articles.starcitygames.com/articles/thoughtseize-you/

コンボデッキが採用する《思考囲い》とミッドレンジデッキが採用する《思考囲い》は大きく意味合いが異なるというのは念頭に置かなければならないと考える。
コンボデッキにおける《思考囲い》はコンボを完遂するためのカードであるというのは明らかだ。
一方で、ラクドスミッドレンジにおける《思考囲い》というのは『Thoughtseize You』から引用すると「Answering A Specific Problem」、「Seeing The Opponent’s Hand」、「Creating A Hole」の特性が色濃いと考える。すなわち、ゲームの主導権を握るためのカードであるということである。

i. Answering A Specific Problem

現代マジックはとにかくカードパワーが高く、解決した段階で不利な交換を強いられることが多い。これは《鏡割りの寓話》はもちろん、《婚礼の発表》や《サメ台風》、cip持ちのクリーチャー、PWなど、挙げればキリがない。そんなカードたちを解決前に対処出来るのはハンデスや打ち消しとなるが、マナ効率や裏目の引きにくさという点で《思考囲い》は唯一無二と言える。


ⅱ. Seeing The Opponent’s Hand+Creating A Hole

これらの特性はラクドスミッドレンジがゲームを掌握するためのものである。相手が自身のデッキに習熟しているほど、キープしたハンドでの相手のゲームプランというのは透けやすい。ハンドを見ることで相手のゲームプランを予想し、その動きをズラすことも出来るし、相手の理想の動きを妨害することで相手にぎこちない動きを強要し、自身のビートプランを完遂することが容易となる。
また、マジックをやっているとよく、「何も引かなくて負けた」という言い訳を耳にするし、私も数え切れないほど言ったことがあるが、「Creating A Hole」というのはこの状況を意図的に作るものであると考える。ハンデスが上手い人は《思考囲い》を擬似的な《Time Walk》として使うことが出来る。


1マナでTime Walk打ったらそら勝つ


一方で《思考囲い》は完全無欠のカードではない。拮抗したゲームで後半にトップして無力に感じたりするのは誰しも経験があることだ。また、無理に打つと、マジックはテンポのゲームでもあるから、序盤の1マナというのは価値が高く、自分の動きを阻害してしまい、逆説的に相手が動き易くなってしまうという負け筋も想像し易い。しかし、ラクドスミッドレンジは軽い妨害とコストパフォーマンスに優れた脅威によって構成されたデッキであるため、その弱点を限りなく減らしていると考えられる。《思考囲い》の使い方に気をつければ、ゲームを掌握することが出来るだろう。

a.後半にトップすると弱い


前述の通り、現代マジックはカードパワーが高いが、相手だけカードパワーが高い訳ではない。ラクドスミッドレンジも大量のパワーカードを有している。例えば、《墓地の侵入者》や《黙示録、シェオルドレッド》は対処されなければ速やかにゲームを終わらせることが出来る。


《思考囲い》で相手のハンドに穴をつくれば対処される確率はグッと低くなる。相手の対応が不確定な状態でこれらのカードを闇雲にプレイするのではなく、《思考囲い》とのコンボカードとしてプレイすることでその価値を大きく高めることが出来る。つまり、これらのカードのプレイを意図的に「後回し」にすることでトップしてくるハンデスの価値を下げないという考え方が出来るだろう。幸い、ラクドスミッドレンジには《ロークスワイン城》や《勢団の銀行破り》のようなアドバンテージカードが多く、また、他のカードも十分に脅威として機能するため、無理に上記のパワーカードをプレイせざるを得ない状況は意外と少ない。お互いのカードパワーが高い現在マジックにおいてはハンデスの受け入れが広いということは覚えておいてもいいだろう。

b.テンポを失い、後手に回る


これについては《思考囲い》をプレイするタイミングの話になる。すなわち、その《思考囲い》は絶対に今プレイしなくてはいけないのだろうか?という自問を繰り返していく必要があるということである。
前述の通り、ラクドスミッドレンジはビートダウンデッキであるから、勝つためにはクロックが必要不可欠だ。誤解を恐れずに言えば、ゲームを速やかに終わらせるためにクロックの展開は最優先(!!!)で行うべきなのだ。《税血の収穫者》がハンドにあるのに2ターン目に《思考囲い》をプレイしなくてはならない、あるいはその方が穴をつくり、ゲームを掌握し易い状況にあるというのは納得出来るだけの理由付けが必要である。先にクロックを展開し、相手のビッグアクションに合わせてハンデスを打つ方がゲーム展開を有利に運べるケースも多々ある。

長くなったが、これらのことを理解した上でハンデスと付き合えれば、《強迫》をサイドインして自身のゲームメイクにどのように関与させられるかについても応用が効くようになるだろう。

4.実際に自分が使用したリストと簡易サイドボーディング案

自身が使用したリストのベースは4/30シーガル仙台駅前店エリア予選を突破したチームメンバーのヴェさんのものである。

参考:2023/04/30 カードゲームのシーガル仙台駅前店 チャンピオンズカップ サイクル3 エリア予選 権利獲得者Deck List(6位通過)
https://mtg.bigweb.co.jp/article/championscup3-seagull-sendai-deck_list

タイプとしてはmisplacedginger型であり、75枚に《絶望招来》を3枚採用することでより同型に強くした非常に防御的なリストとなっている。
微調整を加えて自身が使用したリストは以下のものとなる。

マスとん謹製ラクドス


参考:2023/05/03 イエローサブマリンマジッカーズ★ハイパーアリーナ チャンピオンズカップ サイクル3 エリア予選 権利獲得者Deck List(2位通過)
https://mtg.bigweb.co.jp/article/championscup3-yellowsubmarine_hyperarena-deck_list

自身は5/3 イエローサブマリンマジッカーズ★ハイパーアリーナエリア予選を突破したが、当日のマッチアップは以下の通りだ。

ラクドスサクリファイス 後○×○
青白カヒーラコン 後×○○
緑単信心 後○○
白単人間 先×○○
青白コン 先×○○
ID×2

運も良かったが、想定メタゲーム通りのマッチアップで5勝し、エリア予選を突破できた。

サイドボーディングは自身の経験やラクドスミッドレンジ有識者の意見を下に行い、実際のものを一例として記載するが、ラクドスミッドレンジはどのようにサイド後のデッキを最適化するかというよりもそれぞれのマッチアップで自身がどのようなゲームプランをとりたいかに依ると考えているため、きちんと理由付けを行ってサイドボーディングを行うのが良いだろう。

対ミラー



+2《絶望招来》
+2《強迫》
-4《税血の収穫者》
古典的にはハンデスを可能な限り抜くのが望ましいマッチアップだが、上述のように現代マジックはハンデスの賞味期限が長く、カードパワーが高いという特徴があるため、ハンデスは最大枚数採用し、ゲームの主導権を握りにいくのが好ましいと考える。《税血の収穫者》は特に後手では《踏みつけ》や《ヴェールのリリアナ》などがある都合上2ターン目にプレイしづらく、私は全てサイドアウトするのが好みだ。

対青白コントロール


+2《絶望招来》
+2《強迫》
+2《害悪な掌握》
+1《未認可霊柩車》
-1《パワー・ワード・キル》
-2《削剥》
-4《致命的な一押し》
このマッチアップのコツは消極的なプレイをしないことにあると思う。見えないカウンターに怯えずにビートダウンを淡々と行なっていく。アドバンテージを取ることも大事だが、ゲームを悠長にすると《記憶の氾濫》や《ドミナリアの英雄、テフェリー》を強く使われてしまい、自分から負けへ向かっていってしまう。相手に余裕を与えないことが大事だ。ただし、相手目線で《黙示録、シェオルドレッド》は最大級の脅威であるため、目先の4点に飛び付かずに出来る限りアンタップ状態で維持するように意識すること。
また、相手の《放浪皇》を強く使わせないために忠誠度に気をつけること。忠誠度1であれば後回しに出来るが、2以上であれば最優先で処理することを心掛ける。戦闘後メインフェイズの《踏みつけ》は《放浪皇》の対処札としてちょうど良い。

対緑単信心


+3《絶滅の契機》
+2《風化したルーン石》
+2《害悪な掌握》
+2《強迫》
+2《絶望招来》
-4《砕骨の巨人》
-2《墓地の侵入者》
-3《勢団の銀行破り》
-2《削剥》
このマッチアップで目指すところは簡単で、相手のゲームスピードを下げ、《絶滅の契機》で相手の盤面を壊滅させて《黙示録、シェオルドレッド》や《鏡割りの寓話》で勝つことを目指す。《絶滅の契機》は奇数で打つため、こちらのビートダウンがチグハグにならないように3マナクリーチャーは全てサイドアウトをする。《勢団の銀行破り》は相手の《大いなる創造者、カーン》にハマることが多く、起動する余裕も少ないため、サイドアウトする方が良いと考える。

対白単人間


+2《害悪な掌握》
+3《絶滅の契機》
+2《煤の儀式》
-4《思考囲い》
-1《強迫》
-1《絶望招来》
-1《勢団の銀行破り》
古典な除去コントロールVSアグロの構造になることが多い。《婚礼の発表》が重なると負けることが多いため、全体除去で相手に息切れさせつつ、自身のクロックを残せるように立ち回る。《骨化》を《黙示録、シェオルドレッド》以外に使わせるようにする。
白単人間以外のアグロにも似たようなサイドボーディングおよび立ち回りになることが多いが、《集合された中隊》入りの相手では《風化したルーン石》のサイドインも検討する。

対アブザンパルヘリオン


+2《未認可霊柩車》
+2《風化したルーン石》
+2《害悪な掌握》
-4《削骨の巨人》or《税血の収穫者》
-1《強迫》
-1《絶望招来》
コンボに対して安全な立ち回りを意識し、《勢団の銀行破り》や《黙示録、シェオルドレッド》でゲームを終わらせるプランをとる。サイド後は《エシカの戦車》が主な負け筋となることが多いため注意する。

対ロータスコンボ


+2《強迫》
+2《未認可霊柩車》
+2《絶望招来》
-4《致命的な一押し》
-2《削剥》
立ち回りは対青白コントロールに近いが、相手がコンボのターンまでマグロであることが多いため、とにかくビートダウンに体重をかける。厳しいマッチアップだと感じるようであれば、《減衰球》の採用を検討しても良いだろう。

対奇怪な具現


+2《強迫》
+2《絶望招来》
+1《害悪な掌握》
+2《風化したルーン石》
-4《致命的な一押し》
-2《削剥》
-1《パワー・ワード・キル》
不利マッチアップだが、勝ち目はある。相手は冗長性が低いコンボデッキではあるが、序盤の立ち上がりが安定している訳ではないため、ハンデス+ビートダウンで動きに穴を作り速やかな勝ちを目指す。基本お祈り。

対オパス独創力


+2《強迫》
+2《未認可霊柩車》
-4《致命的な一押し》
赤いデッキ全般に言えるが《黙示録、シェオルドレッド》が強い。相手は基本的に6マナの強い動きが多いため、相手のハンドと相談しつつ、序盤からプレッシャーをかけていく。当たり前だが、相手が6マナに到達した際には《奔流の機械巨人》が出てくることを意識してコンバットを考える。
相手が《偉大なる統一者、アトラクサ》をフィニッシャーにしたタイプの独創力デッキである場合は《未認可霊柩車》は入れずに《絶望招来》のサイドインを検討する。


5.最後に


偉そうに環境の王者ラクドスミッドレンジについて語ったが、日本語の記事でラクドスミッドレンジについて語られたものが少なかったため今回筆をとった。
稚拙な内容ではあるが、今まで何となくラクドスミッドレンジを敬遠していた方や《思考囲い》を上手く使えずに悔しい思いをした方の背中をこの記事で押すことが出来れば幸いである。
質問や叱咤激励、ご指導ご鞭撻に関してはTwitterでのリプライ・DMやnoteでのコメントをいただけるとありがたい。皆さんのパイオニアライフが豊かになることを祈る。

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