『あちこちオードリー』に見る「テレビで話を聞く」ことの変化

以前の地上波のテレビのトーク番組というのはマニアックなファンは知っている話かもしれないけれど、一般の視聴者は知らなくて、確実に短い時間で端的にわかる話をするところという感じがあったと思う。以前はと書いたが、ゴールデンやプライムタイムの番組はまだほとんどそうだろう。

事前にアンケートをとって、その中で鉄板と思われるものであったり、大多数の人に引きのあると思われる分かりやすいエピソードが選ばれ、それを台本に配して順番にMCがふっていくという番組が圧倒的に多い。もちろんそれはひな壇にたくさんの人がいる番組の場合が多いけれど、もし仮にゲストが一組であるとしても、必ず事前に話すことは固めている感じは受け取れる。

もちろん、そのやり方もテレビだからこそ当然のことだとも思う。

しかし、我々のようなライターは、当たり前のことだがいつでもぶっつけ本番だ。30分しかもらえない時間では打ち合わせをすることなどない。もちろんそれは、文章はあとで補足をしたり順番を入れ替えたり、解釈を加えたりもできるということもある。しかし、媒体にもよるけれど、マニアックなファンは知っているが、一般の読者は知らない話を、何度も何度も聞いていたのでは意味がない。

実は今も、テレビと同様、マニアックなファン向けの話はやめて、一般の人に向けてわかりやすい基本的なことから聞いてと頼まれることもあるし、そこから新たなことが聞けることもあるにはあるのだが、例えば雑誌を買う人が、そのインタビューを目当てにしているということも多くなった時代に、もうそれでは競争できなくなっているのではないかと思う。

また、女性ファッション誌における「若手俳優」や「アイドル」の取り扱い方もかなり違ってきているように思う。

かつてであれば、女性ファッション誌はあくまでもファッション誌であり、巻末のカルチャーページは、必ずあるべきものだからやっているというルーティンのような性質のものもあったし、「若手俳優」や「アイドル」のインタビューやグラビアも1ページというものも多かった。

それは、以前は、ファッション誌はファッションを見たいから買っている読者が多かったということもあるし、たった1ページのカルチャーコーナーのために、ライターとカメラマンをタレントや俳優のところに出向かせるということができていたという、ある意味恵まれた時代だったということもあるだろう。

私は、10年前くらいまで、中小の出版社の雑誌の仕事が多かった。そういうグラビア誌では、取材時間を30分しかもらえないのに、その中で写真も撮り、表紙も撮り、インタビューもして、巻頭カラー20ページなんてこともしていたから、その後、大手の雑誌の仕事をしたときに、取材時間を1時間もらえて、たっぷり写真も撮れて、たっぷり話も聞けるのに、誌面になるのは1ページとか半ページの囲みなんてこともあり、その落差に大変おどろいたものである。

例によって、その1ページ、もしくは半ページのインタビューには、映画やドラマの内容にも触れないといけないし、本人の言葉を使えるのは、ほんの少しだけということも多く、なぜ大手出版社はそこまで時間をもらえるのだろうと矛盾を感じていた。

それもこれも、映画なりテレビなりを宣伝するには、内容がどうこうではなく、いかにたくさんの人に見てもらえるかが重要であったからだった。

ただ、そうした雑誌も購読者が少なくなってきたことや、アイドルや俳優を「推す」ということが以前よりも当たり前になってきたことなどにより、雑誌における「若手俳優」や「アイドル」の重要度は高まってきた。

そこで、今どきの女性誌、ファッション誌をみてみると、雑誌の後半には、一組だけではなく、何組ものアイドルや若手俳優が登場している。一応確認をしておこうと思って、サブスクの雑誌が読めるアプリを開いてみたら、JJには巻頭からジャニーズのTravis Japan浴衣姿で登場していたし、次は新生ガールズグループのNixiUの大特集、そしてグラビアではないが「私たちのオタ活は止まらない!」というページすらあった。またRayの表紙はKing & Princeの永瀬廉が飾っていた。

もちろん、昨今の人はそれがごく当たり前に思えるかもしれないが、10年20年前はそんなことはなかったのである。こうして今、アイドルや若手俳優が登場するのは、そのことで雑誌の売り上げに貢献しているということでもある。だからこそ、ページ数も増え、インタビューも長くなっていくのだ。

長くなったが、テレビでも雑誌でも、以前よりも一人、もしくは一組の話をじっくり聞こうという傾向になりつつある。

そんな中でもっとも今を感じるのが冒頭に書いた「あちこちオードリー」なのだ。

ノブコブの徳井は、『アメトーーク!』の「バラエティ観るの大好き芸人」で、『あちこちオードリー』について、「打ち合わせがないんですよ。アンケートも書いてない。何もしゃべることが決まってないまま始まるから、オードリーも俺らも裸の言葉が出る」と語っていた。

そんなことを思い出したのは、「あちこちオードリー」をみていると、そのときに思いついた疑問をゲストにそのままにぶつけるし、これまでにマニアなファンですら知らなかった「へーそうだったのか」が溢れているように見えた。

まるで自分たちがやっているインタビューのようだなと思っていたのだが、やはり同じ作り方をしているのだなということを改めて実感したのである。

昨今、芸人がホストを務めるトーク番組がたくさん始まっている。いまだ、アンケートをベースにしている感じであったり、同じようなスタイルの番組が同時期にたくさん始まっているからこそ、差別化をしようと、急にロケに出始めたリと、いろいろ試行錯誤をしている感じはするが、やはりその中で、『あちこちオードリー』は、そうしたテレビのトーク番組のセオリーを覆したということで、頭一つ抜けていると思うのである。






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