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「最高の試合」

3月19日に、人生で2回目の野球観戦に行った。場所は福岡PayPayドーム、ソフトバンク対阪神のオープン戦だ。

私は高校野球が好きだけれど、プロ野球はそれほどではない。8年ほど前に初めてPayPayドームで生のプロ野球を観戦したときのことも、あまり印象に残っていないくらい。今回も、親がどこかでチケットを手に入れてきて「あんたも行こう」と誘われる形で、行くことになった感じ。

でも今回は「阪神が生で観られる」と思うと、前回より楽しみな気持ちが大きかった。福岡に来てから、当然だけどローカルニュースに阪神の話題が出ないことを寂しく思う自分がいて、大阪で育つ間に少しずつ「阪神ファン」になっていたことを自覚していたからだ。

当日、内野席に小さなトラッキーを持って座った。周りは当然、ソフトバンクのファンの方ばかり。阪神の応援団たちは、私たちと反対側の外野席にいた。心細くなりながら周囲を見渡してみると、ちらほらタイガースユニフォームの人もいて、少し安心する。

かわいいの見つけたんです……

「こんな良い試合、1年に1回あるかないかやで」東京在住の熱狂的阪神ファンである兄から、試合中にそんなメッセージが送られてくるほど、この日の試合はすごかった。

Sportsnaviより引用

簡単に試合内容を説明すると、序盤はソフトバンクがリード。中盤からじわじわ追い上げて逆転した阪神が、逃げきって勝利した試合。HRも両チームから2本ずつ飛び出すし、球場がワーッと湧き立つような好プレーも多かった。

私は特に、最終回のソフトバンクの攻撃が忘れられない。阪神が10-8でリードして迎えた9回裏、ソフトバンクが1点返して10-9に。なおも逆転のチャンスが続く。このとき、観客席は一気にヒートアップしていた。

自分の周りにいる大勢の人たちがソフトバンクの勝利を願い、声をそろえて応援する。その迫力に、私は圧倒された。圧倒的マイノリティな状況に、身も心も萎縮して、緊張感が高まっていくのを感じた。

大多数の人が、自分と逆の結果を望んでいる状況があまりに怖くて心細い。持ち堪えてくれ……と心の中で願いながら、あまりに大きな声援にのまれ「逆転されるのではないか」と不安が募ってくる。もちろん、ソフトバンクファンの皆さんは、まったく悪くないのだけれど。

でもこの日の阪神は、そんなすっかり小さくなった私の願いに応えてくれた。10-9のまま、阪神が最後のアウトをとった瞬間「やった!」と思わず声が出た。

同時に、周りの人たちは落胆の声とともに、一斉に席を立ってその場をあとにし始める。私はすぐ席を離れる気になれなくて、反対側の外野席にいる阪神ファンたちが応援歌を演奏する「二次会」の様子を、しばらく眺めていた。

なんとなく行った野球観戦で、こんなにも緊張して、気持ちが高揚するなんて思わなかった。アウェイで勝つアスリート、本当に尊敬する。大勢と違う結果を願うのは本当に怖かったけれど、だからこそ自分が望んだ結果になったことが、こんなに嬉しいのかもしれない。

しばらく余韻に浸ってから席を立って、ドームを出た。スマホを確認したら、兄から「最高の試合」とメッセージが届いていた。私も心底そう思う。そんな試合を生で観られた。この余韻はまだ、しばらく続きそうな気がする。

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