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羊は安らかに草を食み 前のほうの書評

母方のひいおばあちゃんは同じ市内に住んでいるのになかなか会うことがなかった。たまに母の実家を訪ねたとき、ひいおばあちゃんはいつも決まって、名前を呼んでくれた。何度も何度も繰り返して、いつも笑顔だった。

満面の笑顔のひいおばあちゃんは、私に決まって同じ質問をする。

「何歳になったの」

少しまた経つと新しい質問をするように、笑顔になって

「何歳になったの」

と聞いてくる。そのたびに私も笑顔で返事をしようとすると、隣で聞いていたおばあちゃんが

「8歳だって」

と口を挟む。

本の中の益恵は私のひいおばあちゃんとはまるで違う。何度も同じことを聞き返すのは認知症の症状に似ている。益恵はただ一人孤独の世界に住んでいるのだ。過去の記憶のなかでたった一人で生きている。

過去の記憶が幸せならいい。それならばまだいいのだ。益恵は違った。戦争で苛酷な日々を生き抜き、その後の人生でも戦争を引きずる苦労の過去を背負っている。

益恵は最後の旅の果てに何をみつけるのか。そして、3人の老女にはどんな結末が待っているのだろうか。



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