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何をやっても、うとまれる女の子の話

賢くて繊細でものがわかりすぎる女の子は家出をしました。震えながら森の一夜を過ごします。家にはもう帰りません。女の子と両親は別に暮らした方が互いに幸せなのだと分かってしまいましたから。

大地や風や星や動物たちに助けてもらい、女の子はクマの住処を譲ってもらえました。湧水の場所も見つけました。食べられる木の実やキノコや草も教えてもらいました。

「森は豊かね。お説教をする人間がいないと私の心も豊かで優しくなる」

ナッツとキノコを混ぜたものを食べる女の子の呟きを聞いて風が笑いました。

そうして森での生活が落ち着いてきた頃、女の子は風や水や大地や星が語る記憶を物語に書き起こしました。

「これって私たちみんなにとって大切な物語じゃない?」

女の子は一大決心をして街へ出かけて行きました。


女の子は街で1番大きな本を作る商会に行きました、そこで教えてもらえたことは、年に2回「ブンガクショウ」の募集をしているからそこに応募しなさい。もしくはお金を払って本を作りますか? それならあなたは私どもの大切なお客様です。ということでした。

「私はお金がないから応募するしかないわね」


女の子はブンガクショウに応募してみましたが返事は全くありません。

大きなところだからダメなのかと思い、中くらいのところ、小さなところ、あらゆる本を作っているところへ持ち込んでみました。ですがどこも良い反応がありません。

ある本を作る商会ではこう言われました。

「はっきり言ってこんな物語は売れない。皆もっと商売が上手くいくためのコツや恋愛で勝利するための本が読みたいんだ」

カフェで知り合った代筆屋にはこう言われました。

「バカにでもわかる話を書きな。そこらの婆さんも読めなきゃダメだ」

確かにみんなの言うことは一理あると女の子は思いました。

「どうやら街のみんなは魂のクスリになる物語は必要ないらしい」


それなら聞くだけで幸せになる歌をうたうのはどうだろうと、星や風と協力して曲を作りました。吟遊詩人の免許をとって女の子は道で歌います。

ですが鳥や猫や犬、ときどき子どもが熱心に聞き入るだけです。

女の子は基本的に動物専門の吟遊詩人でした。


昼食に女の子は鳥が膝に落としてくれた果実を食べていました。緑と赤の縞模様のマントを着た吟遊詩人が女の子に言います。

「あんたが歌うと動物が集まって不潔で困るんだよ、他へいってくれ」


それではと食べるだけで元気になる焼き菓子を作って売り歩くことにしました。

動物たちが運んでくれるナッツ果実や牛が分けてくれるミルク、大地が教えてくれたハーブを使った焼き菓子です。一口食べれば頭が冴え、ふた口食べれば元気が出て、全部食べたら病知らずで優しくなれるのです。

今回は大変人気が出ました。一度食べた人は夢中になり、みんなにおいしさを触れ回ってくれました。家族親戚みんなに食べさせたいと買い占める人もいました。

女の子は夜明けからお菓子を焼き、朝の街で売り、昼前にはお菓子は売り切れてしまいます。そして市場で小麦粉や卵や砂糖を買って帰ります。

森の動物たちも女の子のためにとはりきってくれていました。しかし大地は警告しました。

「自分や土地のキャパシティを超えることをしてはならない。動物たちにも植物たちにも無理をさせているのではないか?」

女の子はしゅんとして反省しました。確かにみんなに求められるのが嬉しくて無理をさせたかもしれません。

2日おきに焼き菓子を作ろうと決めました。街の人たちは大変残念がりました。そしてさらに女の子の焼き菓子は人気になり王都からも買いに来る人が出てきました。

そんなある日、市場へ行って小麦粉と卵を買おうとしたらば、ふくよかなおじさんが申し訳なさそうに言いました。

「ここにあるものは全部予約済みなんだ」

「そうなの。別の店で買うからいいわ」

鉢巻をまいたおばさんの店で注文しようとしましたが、そこでも断られました。

「悪いね、この市場ではアンタに売れるものはないよ」


「市場の人にきらわれた。いいえ、街1番のお菓子屋とパン屋に睨まれた」

風が女の子を慰めるために頬を優しく撫でました。女の子は風にお礼を言うと近くに咲いた真っ赤な花の香りを胸いっぱいに吸い込みました。

続く。

朗読動画も作りました

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