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人間扱いされない女の子が怒る話と努力の報われない男の子の話

人間扱いされない女の子が怒る話


賢くて繊細でものがわかりすぎる女の子は森で1人で暮らしていました。ときどき彼女の家へ知恵を借りに街の人が訪れます。

仕事がうまくいかないときどうすればいいか? 喧嘩した恋人と仲直りしたい! 医者もわからない病の薬草が欲しい、困ったときにだけ人々は女の子の元へ訪れるのです。

女の子は尋ねられたことに、ときにアドバイスを与え、ときに森に教えてもらった薬草を渡しました。そして、ときに黙って首を振り相談者をそのまま返しました。

街の人たちはときに感謝し、ときに罵倒の言葉を投げつけ、それでも困ったときは女の子の元へやってきます。


女の子はだんだん疲れてきました。街の人たちにとって自分は随分と都合の良いお悩み解決マシンになっているようだったからです。

「人間扱いされていない」

女の子は森の中を歩きながら呟きました。

「私のことを誰も見ていない。みんな便利な知恵が欲しくて来ているだけ。明日、あの家にいるのが別の人になっても彼らは気にしない」

女の子は腹が立ってきました。

「私をちゃんと見る人が出てこないのはなんで?」

小枝をポキポキ折りながら女の子は一日中、森の中を歩き回りました。星や大地や風に話しかけ、自分がどうすれば良いのか尋ねていたのです。

星や大地や風は微笑んだまま、答えません。女の子がその答えをもう持っているというのです。

「・・・わかった。私が私をちゃんと見てないからね。私には一人の時間がもっと必要だわ」

星は女の子に「私の光の元に横たわれば疲れを癒してあげます。特に新月のとき寝転がりなさい」と言いました。

大地は女の子に「私が洞窟を用意してあげるから、ひと月の半分はそこで過ごしなさい」と言いました。

風は女の子に「私があなたに必要な情報を集めて来てあげる。そしてあなたの情報が必要な人に届けてあげる」と言いました。

女の子はにっこり笑顔になりました。

「ありがとう、そうするわ」



努力の報われない男の子の話


勇気があって純粋な男の子は、国のリーダーとして最近眠る暇もないくらい忙しくしています。目の下には濃いクマが出来、赤いガウンはすりきれています。

百年に1度の天災が起きました。ある集団が毒を井戸に投げ込みました。稀な疫病が流行り、人々がばたばたと倒れていきました。

男の子は一生懸命働きました。問題を解決しました。街の皆の話も、信じるものの違うもの達の話にもよく耳を傾けました。自分の信条とは異なるやり方も取り入れました。街を治めるために昔の例も調べ、また最新の例も学びました。

うまくいきません。作物は実りません。水は枯れ、土は痩せ、太陽は滅多に顔を出しません。人々は争い、生活に疲れた人は国を離れていきます。


「一生懸命やってるし、学んでるし、みんなの望むことをしてるのに何も報われない」

男の子は書類を処理する手を止めつぶやきました。目の前の書類の山は片付けたと思ったら、午後にはまた増えるのです。

予算が足りないので、人が雇えません。なので男の子自身がやらなくてはいけないことが増えました。外交も書類仕事も交渉事や物事の決断もやります。男の子へかかる負担は増える一方です。

「いやいや、天災だって疫病だって仕方がないことだ。僕はやることをやるだけだ。いつか努力は報われるだろう」

男の子は伸びをしたあと、再び仕事に取り掛かります。湧き上がる不安と徒労感はなかったことにしました。

男の子の感情はゆっくりと死んでいきます。が、男の子は気が付きません。街ではそれが当たり前だったからです。大人はみんな、感情を殺していきました。その方が今のような時は生きやすかったのです。

続く。

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