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国の試練と試しの岩に挑む男の子の話

勇気があって純粋な男の子は街のみんなから勧められて国のリーダーになる試練に挑戦しました。

国のリーダーになる試練は大変でした。1年もかかったのです。男の子は1週間くらいで生まれた街へ帰れるだろうと思っていたのでびっくりしました。

地図を頼りに山を駆け回り、判断力を試されました。海を漂流し、己の心の影と向き合いました。外国の港へ1人で放り出され、人を惹きつけ説得する能力を測られることもありました。貧民街に飛び込んでトラブルを解決し、計画的に環境を改善する課題もありました。

実に大変な1年間でした。男の子は日に焼け、背も10センチも伸び、がっしりと筋肉がつきました。でも瞳は小さい頃と変わらず星のように光っています。

「最終課題は何だろう?」

最終試験に残ったもう1人の若者が答えます。

「知らないのか? 試しの岩から剣を引き抜くのさ」

「おとぎはなしでよくあるやつ?」

「そうだ」

男の子は若者が指差す方を見ます。黒く艶々光る小さな岩に錆びたチンケな剣が刺さっています。

「え? あの剣、溶接されてない?」

男の子は言います。

「溶接されてようと、魔法の力で何かされていようと、引き抜いた奴がこの国のリーダーだ」

若者は白い歯を見せて笑います。「1年間互いにがんばったな。恨みっこなしだ。最終試練は俺が先に行こう」

若者はそう言うと男の子の肩を軽く叩き、小さな黒い岩へ向かって歩き出しました。男の子は若者は本当に勇気もあるし生まれもいいし頭も良いから彼が剣を引き抜くだろうと思いました。自分はがんばったけれど、若者ほど成績は良くなく、失敗をしていろんな人に助けられ、ごく普通の人間だと痛感させられたのです。

若者が錆びた剣に手をかけます。腕の筋肉の盛り上がりが男の子からも見えるくらい力を込めます。しかし剣は抜けません。若者は3度挑戦しましたが剣は引き抜けませんでした。

悔しそうに顔を歪ませて若者が戻ってきます。髭を生やした試験官が男の子に声をかけます。

「次は君だ。行きなさい」


男の子は剣の刺さった岩へ向かって歩きながらボヤきました。

「絶対に溶接されている。若者が抜けない剣が僕に抜ける訳ない。でもみんなが応援してくれたし、1年間がんばったから全力でやってみよう」

男の子は錆びた剣の柄に手をかけます。風が一陣吹きました。男の子は大きく息を吐きました。そして、故郷のみんなに僕はおとぎばなしに出てくるような試練に挑んだよ!と話そうと思いました。

剣を握りしめ、引き抜く動作をします。


思わず男の子は尻もちをつきました。あっけなく剣は引き抜かれ、男の子の手の中にはボロボロに錆びた剣がありました。


まわりの群衆が歓声をあげていて耳がわんわん痛いくらいです。共に競った若者は称賛の表情で手を叩いています。髭の試験管は熱狂的に手を叩いていました。

こうして男の子は街のリーダーから国のリーダーになったのです。

続く

朗読動画です↓

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