見出し画像

墓碑銘に刻みたいことば

自分のお墓に墓碑銘を刻んでもらうなら、何と書いてほしいか。

自己啓発のセミナーなどのワークで出てくる問いかけ。死んだ後にどう思われようとどうでもいい、とか、正直わからないとか、私も自分のセッションで何度か使ったけれど、そう答える人は一定数いる。わたしもその一人だった。

死んだあとのことはどうでもいいというよりは、死後をイメージしにくいのかも。

墓碑銘というのは、生前のその人を短い文で表すことば。生涯の多くを、あるいは後半の人生を、なにを重んじて生きたかが現れるんじゃないかな。

業績をつらつら書いていたらスペースが間に合わない。だから、その人のエッセンスが現れる一文になる。作家だからといって、作品名を並べてそれの作者、というのは味気ない。どんな人なのかはそこからはわからない。それらの作品を通して伝えたことや、世に与えた影響が墓碑銘になる。

たとえば鉄鋼王といわれるアンドリュー・カーネギーが自分の墓に刻ませた言葉は
"おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男ここに眠る"

優秀なトップであっても、自分一人では成し遂げられないことを知っているからこそ、歴史的な事業化になれた彼の信念が現れている。

そう思って自分を振り返ってみると、仕事として翻訳したり英語を教えたりしているけれど、英語を教えた人、というのは墓碑銘にしたくないかな。ダンスが好きだからといって、ダンス大好きだった人と書かれるのもなんだかなあ。

そういう好きでやっていること、技術をもっていること、業績をあげたことでは自分の本質は表せない。

今自分を形作っていると思っているものは身につけた衣装でしかなく、そういうものを全部脱いだあとに残っているものが、自分のエッセンスだと思う。

英語もダンスも、卒業した学校も、学んでえた知識も、つきあってきた友人も、家族もそぎ落として、それでも残るもの、私はこういうものだと表せるもの、それが私の本質なんだと思う。

そぎ落としていく過程で、わたしはそれらをやることで何を得たいんだろうって思った。なぜこれがほしい、これがなかったらどうなる、って自分に問い続けて出てきたのが、これがないと孤独だから、だった。

そっか、すべて孤独を感じないでいられるための道具だったんだな。

じゃあ、孤独をさけるのではなく、本当に孤独ではないときは、今まで何をしていただろう?

そう思ったら私は、人が自分の価値と出会いなおすのを目撃したときだなと直感した。

自分には価値がない、自分なんか、って自分を責めていたり、自分に絶望している人を見ると、ムズムズする。うまくはまっていないパズルのピースを置きなおしたくなる。向きが悪かったり、置き方が雑だったりで、ちゃんとはまるはずのピースが浮いているのを直したくなるのと同じだ。

人をサポートしたいとか、助けたいとか、結果そうなるけれどそれは意図にない。浮いているピースをぴしっとはめたいのだ。そのはまった心地よさを感じたいのだ。はまったとき、私もだけれど、本人もすっきりしているのがわかる。はまったね!という心地よさが二人の間で共有され、他にもそれを一緒に見ている人がいると、その人にも伝わる。

これが私にとっての浄化であり、エネルギー循環だ。

裏返っていたらひっくり返したいのだ。そして、ああ、ぴたっとはまった、本来のあるべき状態になったという瞬間を楽しみたい。コーチングのセッションや、グループで思いをシェアする「想いの言語化ブートキャンプ」でやっていることはそれだ。

だから、人が自分の価値と出会いなおすのを見続けた人、と書いてもらうとしっくりくる気がする。

ぴたっとはまると心地よいし、はまっていないものを見ると気持ち悪い。

これさえやっていれば孤独ではない、と確信した。人とつながっていること、自分とつながっていることが前提から消えるほど、そのときは自然なことになっているから。これをやり続けていれば、孤独から目をそらすためにしているありとあらゆる活動はなくなっても私は孤独ではない。

不安は今持っているもの、今執着しているものがなくなったらどうしようと怖れるから起こる。お金がなくなったらダンスができない、人が集まらなかったら英語を教えられない、そうしたら孤独しか残らない、、、すべて自我のドラマが見せている不安だ。それがすべて奪われても、人が自分の価値と出会いなおすのを見続けるかぎり、わたしは自分とつながっている。

人が自分の価値と出会いなおすのを見続けることさえしておけば、私は至福だ。その上で、ダンスをするもよし、夢を追うもよし、英語を教えるもよし。あるいはその全部しなくてもよし。

この気づきは私を変えた。いままで絶対に失いたくなかったものへの喪失の不安や執着が消えた。

そこに高揚はなく興奮もない。しずかにしずかに、ああ、そうかそうだったなと納得するだけ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?