ブックホテル「箱根本箱」が、大人の「押し入れ」だった話
子どものころ、押し入れに入るのが好きでした。
暗くて、静かで、ひとりぼっちになれる。
懐中電灯と、おいしいおやつと、好きな本があれば、秘密基地の出来上がり。
世界から切り離された、内緒の隠れ家(のつもり)です。
大人になると、家族の手前もあり、羞恥心が芽生え、いつの間にか押し入れに潜り込む機会もなくなっていくわけですが。
大人が堂々とおこもりできる押し入れ(物理的には押し入れの何倍も広いです!念のため)を見つけてしまいました。
本好きの方ならきっとご存知のブックホテル「箱根本箱」。
1年越しの夢が叶ってようやく行くことができたので、これから行きたいと思っている方のために、中のようすや、過ごし方をお伝えしたいと思います!
2階建ての本棚がお出迎え
箱根に「本好きの天国ができたらしい」と噂を耳にしたのは、1年以上前のことでした。
なんでも館内には無数の本があって、温泉もあり、滞在中ひたすら本を読みながら過ごすことができるのだとか。
いつか行きたいと思いつつ、わが家には「静かに読書を楽しむ」にはまだ小さい年齢の子どもたちがいるため、なかなか実現できませんでした。
先日、家族が「行っておいで」とこころよく送り出してくれて、ようやく訪問が叶ったのです。
箱根登山鉄道とケーブルカーは、2019年12月現在、台風の影響で運休しているので、公共の交通機関を使う予定の方は少し注意が必要。
代行バスが走っていますが、運休の影響で、週末は特に峠道が混んでいるので、余裕を持ったスケジュールを立てるのがおすすめです。
私は強羅駅から、スーツケースをがらがら引っ張って登りましたが、なかなか急な坂道で、読書前に思いがけず筋力トレーニングをすることになりました(笑)
そんなこんなで、予定より少し遅れて箱根本箱に到着。
ロビーのメイン本棚は圧巻。作家や著名人が選書した「あの人の本棚」が至るところにあって、チェックインの手続きを待つ間にも、さっそく読書を始めたくなります。
館内にいるお客さんは、基本的に皆本を読んでいるか、PCやノートを広げて作業をしているので、館内はとても静か。スタッフの方も抑えた声で話し、余計な物音を立てることなくそっと動いている印象です。
お風呂上がりにテラスで読書
お部屋はこんな感じ。全室露天風呂付き。テラスには椅子もあって、あたたかい季節には、青空の下で本が読めます。
館内の本は、すべて客室に持ち込んで読むことができるのですが、客室内にも、部屋ごとにそれぞれ違う本棚が。
部屋に置かれていたハーブティが本当においしかったです。深夜まで読書をしておなかがすいたときには、お菓子も用意されているので安心です。秘密基地では食料も大切。
どこもかしこも本だらけ
部屋に荷物を置いて、用意されている館内着(着心地がいいんです、これがまた)に着替え、さっそく館内の探検に出かけます。
地上2階、地下1階の館内、ありとあらゆる場所に本棚が置かれています。
本屋さんや図書館で寝泊まりできたらいいのに…と夢みたことが一度でもある方にとって、ここは間違いなく楽園です。
本を読むための、隠れ家のようなスペースもたくさんあって、本好き(押し入れ好き)の心をくすぐります。
目にも美味しい食事!と、やっぱり本
夕食は館内のレストラン。
地元の食材をふんだんに使った自然派イタリアンで、「オーガニック&クレンジング」をテーマにしているそう。見た目にも美しく、本当に美味しいです。
ふつうのレストランと違うのは、「おひとりさま」の割合が多いこと。
(ざっと見た感じ、半分くらいはおひとりさまでした)
レストランの中にも本棚があって、コース料理の合間に、おひとりさまは皆本を読んでいます(笑)
レストラン内に「森」をテーマにした本棚があったので、私もコース料理のお皿が運ばれてくるのを待つ間、森の本を読みました。
読んでは食べ、飲んでは読み、忙しいけど楽しい。
「読みながら食べて、お行儀が悪い!」なんて叱られる心配も、ここではありません。お客さんの中には、テーブルの前にどんと書見台を置いて、読みながらフォークとナイフをあやつっている強者も。
読み散らかしながら寝落ちする幸せ
夕食後、お風呂で体をほぐしたら(各部屋の露天風呂のほかに、大浴場もあります)、至福の読書タイムです。館内あちこちに、いつでもコーヒーとハーブティが飲める読書スペースがあるので、場所を変えながら読むのもよし、読みたい本をベッドサイドに積み上げて、ごろごろしながら読むのも幸せ。
私は自室に本を持ち込み、かわるがわるページをめくっているうちに、いつの間にか眠ってしまいました。
食事や温泉の合間に本を読むというより、読書の合間に食事と温泉、睡眠があるという感じ。贅沢な時間です。
爽やかな朝。そしてまた読書
朝、目が覚めたらすぐお風呂に入り、朝食の時間までまた読書。
野菜たっぷり朝ごはんの後も、チェックアウトぎりぎりまでまた読書。ときどき温泉。
「まだまだ読みたい本がたくさんあります! 1週間くらい滞在しないと全然読み終わらないです!!」とホテルの人に訴えつつ、後ろ髪をひかれる思いでチェックアウト。
今回は、家に持ち帰ってじっくり読みたい本、3冊を購入しました。箱根本箱は「本屋さん」なので、気になる本を購入できるのもよいところ。たくさん買って荷物が重くなるのが心配な方は、自宅への配送もできるそうですよ。
「ひとりの時間」と「静けさ」がある場所
箱根本箱は、もともと、取次大手「日販」の社員保養所だった建物を、自遊人と日販が大改造して、ブックホテルとしてあたらしい命を吹き込んだ場所。
リゾートのプロと、本のプロがコラボしているので、居心地の良さ、本棚の魅力は折り紙付き。都会の喧騒を離れ、静かな場所で、ゆっくりひとりの時間を過ごすには、最高の環境だと思いました。
旅に出るときはいつも、旅先で読むための本をたくさん持っていくので鞄が石のように重くなってしまう私は、個人的に「旅行に本を持っていかなくていい!(=鞄が軽い)」ことがとても嬉しかったです。
1年に1回くらい時間をつくって、このとっておきの「押し入れ」にこもる時間をつくりたいなあ…と夢想しながら、ロマンスカーで帰京しました。次回訪れるときにはどんな本との出会いが待っているのか、今からワクワクしています。
読んでいただきありがとうございます! ほっとひと息つけるお茶のような文章を目指しています。 よかったら、またお越しくださいね。