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旅と恋と、魔法と現実と。

8人で「書く日、書くとき、書く場所で」という共同マガジンをやっています。今回は「始まりと途中と終わりの一文が決まった文」 を書きました。

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「あいのり」かよ!……の一文から文章を書くことが決まった。「あいのり」は見たことが無い。まずはどんなもんかと思ってWikiで調べてみた。

男性4人・女性3人の計7人が、ラブワゴンと呼ばれる自動車に乗って、様々な国家を旅する中で繰り広げられる恋愛模様を追う番組。告白は日本行のチケットを渡す形で行う。成功したら、キスをして二人で帰国。失敗したら、チケットを返され1人で帰国。

写真も見てみるとすごく「青春」っぽい。気になったのは男女比。なぜ男はアブれる設定? いや、同性同士がくっつく場合を考えると、この男女比は特別な意図はないのか……? うーんどちらにせよ、若い子が青春するためのドラマだ。


「恋するぞ!」と集められた年頃の男女が一緒に旅をして、恋をしないわけがない。旅に恋はつきものだ。同じような気持ちをもった人が異国の地で出会って、ふだん生活をしているだけでは無いドキドキ感を味わう瞬間に、隣にいるのが異性だったら、それはもう"恋"と呼んでしまっていいのだ。

これまで31ヵ国を旅してきた中で、みんなに訪れるのと同じように、私も旅先で"恋"をしてきた。

ポーランドの国際ボランティアで知合ったカナダ人のケビン。英語が全く話せなかった私に対して、大学で学んでいた日本語で一生懸命話しかけてくれた優しい彼。

留学中にイギリスの友人宅で飲み会をしたとき、一緒に飲み明かしたスコットランド人のテリー。日本人を始めて見たためか、開口一番に「……ファッキン ゴージャス」と言われ、チヤホヤと熱烈アピールをもらったホットな思い出。

そして、次の話も上の2人と同じ、旅先で出会ったハチミツのように甘い"恋"だった。


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膝と膝は、偶然にはあたらないと思う」。向かい合って座った彼が足を広げて、テーブルの隣に置かれたシーシャを吸い始めた。テーブルの下にある膝がわたしのそれとあたる。

「このひと気になる」といった感情は、キッカケさえあれば一瞬で湧いてくる。今回のヨルダンひとり旅もそうだ。時折ぶつかる膝と膝に意識を向けては、こじゃれたレストランでシーシャを吸う彼を見つめ、終始ドキドキしていた。

彼はシリア人のマナフ。カウチサーフィンで知り合い、最終日の夜に食事をしていたのだが、写真で見た以上のイケメン具合に会った瞬間メロメロになった。ポピュラーなヨルダン料理を紹介してもらい、彼は食後にシーシャを吸って、ヨルダンのことや日本のこと、カウチサーフィンで知り合った人たちのことなどを話した。

彼も彼で、私のことは気に入っているようだ。「笑顔がとても素敵だね」「歩いているところでさえ天使のようだよ」と、やさしい目で甘い言葉を囁く。「危ないよ」と道路で手を差し出された時は、このまま夢の世界に連れて行ってくれるんじゃないかと思ってしまうほど、まさに王子様のように感じたものだ。

食事の後、一緒に行く約束をしていたイベントまで、彼の家で待機することになった。帰省中の同居人が今夜母国から帰ってくるから、家をきれいにしておかないといけない、とのことだ。

彼お気に入りのユニクロの服を片付けているそばで、「やっぱりユニクロいいよね。日本でもみんな持ってるよ。」なんてたわいもない話をして過ごす。15分程経っただろうか。リビングと寝室がある程度片付いた頃、「ヨルダンで売ってるGreen teaを飲ませてあげるよ」と言ってキッチンでお茶を準備してくれた。

用意してもらったお茶はすごく甘く、ハチミツがたっぷり入ったGreen tea。意外な味に思わず「うわぁ」と声が出てしまう。

眉間に皺を寄せていると、「本当に天使みたいだね」というロマンチックな声とともに、彼の笑い声が聞こえてきた。そして、彼の手が私の髪の毛を触り、耳にかけ始める。やさしそうな目をした彼の顔が私に近づく……。


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その日は寝付けなかった。

ゲストハウスの2段ベッドの下。自分のスペースに戻り、暗闇の中で彼にメッセージをうつ。頭の中では彼の笑顔、愛の言葉が繰り返されている。

結局あの後は、全力のエビぞりで彼から避けてしまった。愛しそうに見つめてくれる彼の魔法にかかりながらも、日本で会社員をやっている私の姿がふと頭をよぎり、「社会人として恥じない行動を取らなきゃ!」と妙な責任感に駆られてしまったのだ。

ヨルダンでは"旅人"の私と、日本での"会社員"のわたしが頭の中で戦い、さまざまな葛藤を繰り広げ、僅差で会社員の私が勝った。…が、彼にかけられた魔法の時間は、しっかりと続いてしまっている。

「明日のお昼に帰国するから、その前に会いたい」

何度も何度もメッセージを作っては消し、ようやく出来たその1文を送って目をつぶり、私は眠りについた。


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旅に恋はつきものだ。ただ、旅の恋は本当に、夢の中の出来事のようだ。異性と一緒に始めての景色を見ると、まるで魔法にかけられたみたいに、どうもドキドキが止まらなくなってしまう。

魔法はどこかで解けてしまう時が来る。それは別れた直後かもしれないし、帰りの飛行機で眠りについた瞬間かもしれない。


冒頭で話したケビンは、同じ国際ボランティアに参加していたフランス人と恋仲になった。帰国後は「キャンプ中の写真を送って」と連絡が来たが、送って依頼返信はない。

テリーは宅飲みが終わった後、「いつ日本に帰るの?」と連絡が来て、返信をして終わっている。

マナフだって結局、返事をくれることは無かった。

「きっと彼も、私のことを気になってくれているはず」と、夢見心地で返信を待ち、なんの音沙汰もないまま帰りの飛行機に乗り、離陸時にのしかかる重力を味わった時、急に現実に引き戻されるのだ。そして思う。

「ああ、またやってしまった」

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書き始めは「『あいのり』かよ」、途中に入れるのは「膝と膝は偶然にはあたらないと思う」、書き終わりは「あぁ、またやってしまった」です。
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