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「目標よりも適正を考えた」しなやかに変化する(未来の)ディレクター。ーー31企画インタビュー

おだやかでお茶目な「かつまたさん」

“怒り”の感情を前世に置いてきてしまったのでは? と思うくらい優しい人、かつまたじゅん。大学卒業後、能力開発プログラムのメンターを務め、29歳の時に東京から名古屋へ移住。二つの会社を経験し、2018年9月から4か月間、徳島県神山町で「神山ものさす塾」に参加している。その後はディレクターとして働く予定。おやじのLINEスタンプ「父のつぶやき6【若者言葉に挑戦編】」がお気に入り。


今、なにしている人?

2018年11月現在、彼は徳島県の神山町で、12月までの「神山ものさす塾」に入りWeb技術者の集中講義を受けている。少し落ち着かない様子で「来月から徳島に行く」と連絡が来たのは8月9日のこと。

7月に彼とご飯を食べた時、「ディレクター的な立場は自分に合いそうだ」とは言っていたけれど、なぜ急に……? 徳島まで会いに行き、サーティワンを食べながら話を聞いてきた。


どうして急に、ディレクターになろうと思ったの?

「ディレクター職が、自分の活用方法だと思ったから」と話すかつまたさん。ハテナの浮かぶ私に続けてこう言った。

「例えばグラスのコップにご飯を入れて食べると、食べずらいじゃん。自分がもしグラスのコップだったら、ご飯よりも水を入れて使った方が、有効活用できるはず。自分というコップに何を入れたら有効活用できるかを考えた時に、“組織を円滑にすること、とりまとめ役をすること”が合うんじゃないかなぁと思って」

友達と一緒にいる時、会社やチームで活動する時、自分が何をしてきたかを考えると、「とりまとめ役」や「調整役」が多かったそう。プランを実行するまでの線引きをしたり、みんなのタスクを軽減しながら物事を進める役割を、わりと好んで引き受けていた。そこから仕事に落とし込んで、気になった職種が、「ディレクター」だったと言う。

「好きを仕事に」や、「やりたいことをやる」ことが良しとされる風潮があるにも関わらず、自分の適正を考えて仕事を選ぶ。かつまたさん自身も、「適正からの職業選び」は、ここ数年の考え方らしい。


目標に届かない“絶望”

大学卒業後にフリーランスで働いていたメンターの仕事は、ワークショップ参加者のサポートをするもの。

自分の感情や心を自在に操れる人は少ない。それはつまり、感情や心を内包した「意識」について、深く理解している人が少ないとも言える。ワークショップでは、予測の難しい「自己の意識」について理解し、管理やコントロールしていくための能力開発を行っている。

その能力開発プログラムを通してかつまたさんは、実現したい世界観や、やってみたいことがあったそうだ。けれどうまくいかず、辞めた時は絶望しかなかったという。

「人間が共通してもっている、"根っこの部分”があること、さらにその部分を経験した人は、異なる考えをもつ人に対して寛容になれることを、ワークショップ参加者を通して目の当たりにして。それを見てからは『意識を管理する』ことに価値があると感じた。そしてこのプログラムで、他人に対して寛容になれる、やさしい世界を実現したいと思ったんだ。
今でもその気持ちはあるけれど、自分のやりたいことに加えて、それを通じて生計を立てていかなくてはいけない。自分の実現したいことと、経済活動の両立が難しくて、もうダメだと思った。その時は本当に絶望したよ。1.5あった視力も急に、0.8まで落ちちゃったくらい」

「絶望した」の強烈な言葉に反して、笑いながら話す。話を聞いていて、当時連絡も途絶え、ある時「名古屋へ行く」と報告をもらって以降も、久しく会うことはなかったことを思い出した。

「ダメだ」と思った後、自分に足りなかったものは「経済の仕組みに対する知見」だと考えたという。それを知るため、名古屋のベンチャー企業に入り実践から学び始めた。けれど社長と折り合いがつかず、3か月の試用期間を終えた後に辞退してしまったという。

1か月の休息期間を取り、次に企業の人事・労務部門で勤務を始めたそうだ。


8時間働いて、8時間遊んで、8時間眠って。それでいいじゃない

1か月の休息期間中、九州の友人宅へ遊びにいったり、読書をしたり、自由に過ごしていたそう。その時読んでいたムヒカ前大統領の講演記録をきっかけに、次の仕事を始めたという。

「講演記録には、『8時間働いて、8時間遊んで、8時間眠って、それでいいじゃない』みたいなことが書いてあってね。『働きすぎも、遊びすぎも良くないから、バランスの取れた社会を作りましょう』って。今まではずっと仕事のことを考えていたから、試しにバランスの取れた生活をしてみようと思って。そのうえで仕事は『無理をしない、自分でいられる、うるさい人がいない』を基準に探したら、前の会社に行きついた」

その頃のかつまたさんは、傍から見ても本当に規則正しい生活を送っていた。17時以降はすぐ連絡がつくのに、22時を過ぎてLINEを送ると未読のまま。朝6時に「昨日は寝てたよ」と返事が来る。土日はよく東京に来ていたり、友人の多い平塚に通い詰めていたり。そして、仕事の話はほとんど聞かなかった。

読みたかった本を全部読んで、行きたかった場所に行って、会いたかった人に会いに行って、買いたかったもの買う。「私欲を満たした時期」と聞き、すごく理想的な状況のように思えたけれど、「だんだん、やることがなくなっていった」とかつまたさんは続けた。

「バランスの取れた生活のはずが、自分をムダ使いしてるような気持ちにもなってきて。『現状から何を変えたらいいのか』と考えると仕事にたどりついた。

もちろん仕事だけが人生ではないじゃん? 寝たり、食べたり、友達や家族と一緒に過ごしたり。色々な要素がある中で、働くだけ取り上げてもバランスが悪い。けれどその時の仕事は、あまりにも自分を生かせてないような気がした。『僕、結構役に立ちそうなんだけどなぁ』って」


目標を追うことから、適性を生かすことへ

かつまたさんには、「人間=神」説と、「人間=大したことない」説の二軸があるという。

「『人間=神』説は、“思い描いたものにあなたはなっていく”という話。人間何でもできるんだから、目標立てて好きなことをやりましょう、と。一方で『人間=大したことない』説は、“すべてのものはつながっていて、網の目のような中で人間は存在する”という話。なんでもできるわけはないんだから、あなたがやれることをして暮らしなさい、という感じ。目標か、適正か、というとこかな。
前まで僕は「人間=神」説に寄りすぎていたので、今度は適正に振り切って、人生戦略を変えてみようと思った。自分は何をしている時が楽しくて、周りに喜んでもらえていたかを考えて、合うかもしれないな、と思った職種がディレクター。だからここで勉強して、ディレクターとしてやってみようと思って」

12月で神山ものさす塾は終わる。それ以降について聞いた時は、「今後はまだわからない。名古屋に戻るか、東京に行くかにはなると思う」と、ふんわりとした内容だった。


考えていることは、「今より楽しい人生」

仮説を立てて、自分の人生で実験して、ダメだったら考え直して……「先のことはわからないけれど」と、常に変化しながら生きる理由は、「今より楽しい人生あるかなって思って生きているから」と話してくれた。

現状を変えてみる、好きなことを始める、嫌なことをやめる。「変わること」を恐れないことは強さだと思う。

自分が居心地のいい場所を探して、職種や働き方、住む場所を自由に変えるかつまたさんは「楽しい人生」に向かって、これからもしなやかに変化していくのだろう。

あとがき

インタビュー中、「やりたいことは」「将来はどうしていたいか」を聞くと、かつまたさんはちょっと困っていた。「やりたいこと」よりも適正、さらには「自分がやらなきゃいけない」義務感の方が、働くモチベーションになるという。

“適正”と言われると、逆に私は困ってしまう。何が自分に向いていて、何ができるかわからないから、「やりたいこと」ベースで努力したほうが変に悩まなくて済むからだ。けれどそれは自己分析から逃げているような気もしてきた。

もちろん、それぞれモチベーションになることは異なっていて、目標を追うことで力を発揮する人もいるし、頼られることでその人の特性が生かされることもある。どちらが正しいとか間違っていることはない。だから、自分の無理のない方法で、「楽しい人生になるのはどっちだろう」位に選んでいくのがいいんだろうなぁと思う。

話していると色々な気づきをくれるかつまたさん。彼が今後どんなふうに変わっていくのか、インタビューを通してますます楽しみになりました。

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