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ほんだな

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読んだ本(映画)のメモ、よかったフレーズ、考えたことなどを書いたnoteのまとめ。本や映画にまつわるほかの方のnoteも時々追加します。「ほんだな」ですが、映画やドラマなどの感想…
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記事一覧

『いなくなくならなくならないで』(向坂くじら著)|私だけじゃないなら死んでほしい

* 幸せにしたい。そばで支えたい。私だけが、彼女のそれを叶えたい。きっと時子は、朝日の「唯一の人」でありたかったのかもしれない。 残暑が続くある日、朝日から突然電話がかかってきた。17歳の冬に彼女が死んだと聞かされてから、4年半ほど経った頃だ。「死んでいた」期間、彼女はどんなふうに過ごしていたのか。なぜいま、私に連絡をしてきたのか。真実を言わないまま朝日は時子の部屋に居候し、春になって時子が実家に戻るときもついてきた。両親も彼女を歓迎し、「行く場所がないなら、いつまでも

『孤島の飛来人』(山野辺太郎著)|チャンスを阻む「幸せ」の重し

* 冒険へと一歩踏み出すのはいつだって若者だ。アメリカの田舎町で4人の少年が旅に出る『スタンド・バイ・ミー』を代表に、先月公開された『すずめの戸締まり』でもネコを追いかけて旅に出た主人公はまだ高校生の女の子だった。どうして若者ばかりが、冒険の主人公なのだろうか。 この本の主人公・吉田も、20代半ばという若さで冒険へ繰り出した。風船飛行の実証実験。経営危機によりフランスの会社の傘下となる大手自動車メーカーの未来をかけて、横浜にある本社ビルの屋上から6つの風船をエネルギーとし

「書評を書く読書会」に参加して、言葉がもっと好きになった

2022年から高円寺のコクテイル書房で開催している「書評を書く読書会」に参加していて、言葉ってこんなニュアンスまで表現できるのか! と言葉の魅力を再発見できたので、現時点で実感している学びをまとめます。 「読書を楽しむ」ってなんだっけ……?当時参加しようと思ったきっかけは2つ。1つは、「好きな本を読もう」と思って本屋に立ち寄ったとき、自分はどんな本が好きで、何を読みたいのかわからなくてなっていたこと。もう1つは、ライターメインの仕事から編集メインになって、自分で文章を書く機

『N/A』(年森瑛 著)書評|言葉のせいで伝わらない

* 著名人が「婚姻関係の解消」を発表した。メディアは「離婚」と報じた。発表には「新しい家族のかたち」をつくるとあった。それでも人々は「離婚」だと拡散していった。 「離婚」であることは間違っていないかもしれない。おそらく彼らは離婚届を出しただろう。けれど「離婚」という二文字には、彼らにとって一番大切な、「“新しい家族のかたち”でこれからも一緒にいる」ことは含まれていない。 間違ってはいないけれど、正しくない。心の機微が言葉の外に置き去りになり、周りの人に届かない。『N/A

『ラーメンカレー』(滝口悠生著)書評|ラーメンとカレーは別々がおいしい

* 本のタイトルに少し違和感があった。「ラーメンカレー」という料理はあまり見かけない。人気の料理のコラボレーションなのに、よく考えると不思議だ。 この本には、とある2人の結婚式に出席した人々のストーリーが第三者視点で描かれている。前半は、仁と茜夫婦。後半は窓目君。結婚をした2人はけり子とジョナサンといい、仁と窓目君、そしてけり子は高校の同級生だ。 結婚式のあと、仁と茜はイタリアにいる由里さんに会いに行く。由里さんは茜の友人で、ブラジル人の夫チコと娘のハル、夫の母とペルー

『東京都同情塔』(九段理江著)書評|言葉の綾

* 「寛容である」ことは良いことで、「不寛容であること」は悪いこと。そう言い切れる人はどのくらいいるだろうか? 2020年に予定されていた東京オリンピックは、世界的なパンデミックの影響により翌年に延期。オリンピックに合わせて建てられた国立競技場は、当初の計画にあったザハ・ハティドのデザインが白紙になり、代わりに隈研吾の案が採用された。しかし作中では、予定通り2020年に東京オリンピックが開催され、ザハ案の国立競技場が実現。そのありえたかもしれない世界には、物語の鍵を握る建

『目をあけてごらん、離陸するから』(大崎清夏著)書評|自由への旅路

* ページをめくるごとに、まるで作者と一緒に旅に出ているよう。エッセイ、日記、小説などのさまざまな文章を通して作者が見てきた世界に入っていく。 「ミニシアター系の映画を浴びるように観てきた」という作者は、新卒で入った人材派遣の会社を辞め、27歳で映画宣伝を中心に扱うウェブ制作会社に入る。仕事で携わった2010年のフランス映画祭のために来日したジェーン・バーキンは、まるでおまじないのようなメッセージをティーチ・インで日本の女性へ伝えてくれたという。 自由になれ、自由になれ

『うるさいこの音の全部』(高瀬隼子著)書評|自分の声が聞こえない

* ジャンラララ、ジャンラララ。周りの音が大きくなるほど、自分の声が消えていく。自分の声がわからなくなる。本当はもっと、本音を聞いてほしいはずなのに――。 主人公の朝陽は学生時代からアルバイトをしていたゲームセンターで正社員となり、その傍ら小説を書いている。ペンネームは早見有日。有日の著書『配達会議』がテレビで紹介されると、朝陽の周りに大量のさまざまな声が届き始めた。 「小説家の人たちってやっぱり独特の目線で周りを見ているわけでしょ。社会や人間を書くわけだから。いや、ぼ

『おいしいごはんが食べられますように』書評|嫉妬のスパイス

* この話に出てくる食べ物は、なんだかあまり食欲をそそらない。食べ物とともに描かれる、どこかに泥を含んだような人間関係が、本来おいしいはずのものに不調和な隠し味を加えてしまっているような気がする。 物語は、とある会社で働く二谷と、後輩女性の押尾といった人物視点から交互に綴られていく。彼らの話題の中心にいるのは、2人と同じ部署の、いつも笑顔で優しい女性の芦川。彼女は身体が弱くて、仕事ができない。残業が2日以上続くと体調を崩すし、大声を出して怒る人が苦手だから、ミスをしても謝

『ハンチバック』書評――「健常者」という仮想敵に向けて

* <生まれ変わったら高級娼婦になりたい> <普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です> 首をかしげたくなるようなツイートを続ける井沢釈華。10代の頃に全身の筋力が低下する難病・ミオチュブラーミオパチーを発症し、背骨は右肺を押しつぶすかたちでS字のように湾曲をしているという。両親には相当の資金があったようだ。身体の不自由さはひどいものの、死ぬまでに必要なお金なら揃っているらしい。 そんな彼女は両親が遺したグループホームの一室で、通信過程の大学生となっ

ストーリー以外の映画の楽しみ方

思いつきで映画『鬼滅の刃』を見てきた。 私の鬼滅ファン度はそこそこ。アニメはAmazon primeで2度ほど見て、続きが気になり無限列車のストーリーから最終巻まで漫画を買った。それも2回ほど見た。漫画ではホロリと涙を流す場面もあるけれど、『リアル』を読んだ時の号泣具合と比べたらあくび程度。けれど内容は面白いと思っているし、ちょっと独り言多めで、鬼との闘い中に「長男だから我慢できる」なんて思っちゃう炭次郎が愛らしくて好きだったりする。 とはいえ“そこそこ”なファン度だった

2020年に買った46冊

46冊。これが多いのか少ないのか。前年比がなくわからないけれど、本への投資は着実に増えている。 以前は「1冊読み終えないとほかの本を読んではいけない」という謎のマイルールに縛られていて、難しい本に1冊でもあたればすぐに読まなくなってしまっていたけれど、ここ数年はそのしがらみから解き放たれ、「とりあえず買っておいて気になったときに読むでもいいよね」と気軽に手を出している。 それでも、kindleの読み放題にあるものを読んだり(そのおかげで水野敬也さんが大好きになった)、試し

"記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う"

年表上の出来事を淡々と覚える歴史の勉強が、すごく苦手だった。先生が一生懸命、流れにして教えてくれても、なんだかいまいちピンとこなかった。 当時の自分はきっと、歴史が起こった背景や、その時を生きる人の心の揺れ、共感できる考えなどが見つけられず、ただ単純に「覚えるもの」としかとらえられなかったのだと思う。 * "人は記憶をなかなか引き継げない。だから僕たちは記録を大事にする。しかし、記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う。" (「映画『タクシー運

ちょっと大変でも、こう唱えて。「背伸びしなきゃ見えない景色がある」

水野敬也さんの書籍は、ちょうどよくゆるい。どの本にも名言がたくさん書かれているのに、おもしろ要素で固くなりすぎなかったり、とろけるように可愛い写真で飽きさせない。 ずいぶん前に買ったこの本も、パラパラとめくって元気を出すのにぴったりだ。 愛らしい猫の写真と一緒に名言と、世界各国の著名人のエピソードがこの本には書かれている。 「背伸びしなきゃ 見えない景色がある」 これは、猫が一段高いところに上って遠くを見ている写真と一緒にあった言葉。映画監督のスティーブン・スピルバー